【マイカー通勤手当の非課税限度額引き上げ】年末調整対応と経営への影響

  • 2025年11月18日
  • 経理
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この度、財務省より、マイカー通勤者が勤務先から受け取る通勤手当に関する、所得税の非課税限度額の引き上げが発表されました。

これは2014年以来、実に11年ぶりとなる制度の見直しであり、特に車通勤者の多い企業や、既に通勤手当を増額している企業にとっては、経理処理と年末調整に直ちに影響する重要な変更です。

経営層および経理担当者の皆様は、この改正が社員の手取りや企業の給与計算に与える影響を正確に理解し、迅速な対応を進める必要があります。

改正の背景と概要:物価高への対応

今回の非課税限度額の引き上げは、政府の物価高対策の一環として実施されました。

近年、ガソリン価格などの値上がりが著しい状況を考慮し、企業が通勤手当を増額しても、限度額を超えた部分が給与と見なされ所得税の課税対象となることに対する納税者からの不満に対応するものです。

変更の適用時期と対応方法

最も注意が必要なのは、この新たな限度額が「今年4月以降の手当」を対象とする点です。

つまり、2025年4月からこの改正の発表があった11月までの間に既に支払われた通勤手当については、旧限度額で源泉徴収されているため、年末調整で対応する必要があります。

経理担当者への注意点: 年末調整の対象となるため、源泉徴収票や給与計算ソフトの非課税枠の設定を、遡及的に改定後の金額に更新する作業が必須となります。

非課税限度額の具体的な変更点(距離別)

今回の引き上げは、通勤距離が片道10キロ以上のマイカー通勤者が対象となります(10キロ未満の場合は変更がありません)。

最大で月額7,100円の引き上げとなり、限度額以上の手当を受け取っていた社員の所得税負担が軽減され、手取りが増えることになります。

以下に、片道通勤距離別の新たな非課税限度額と引き上げ額をまとめます。

片道通勤距離 旧限度額(月額)新限度額(月額)引き上げ額(月額)
10 km以上 15 km未満 7,100円7,300円200円
15 km以上 25 km未満12,900円13,500円600円
25 km以上 35 km未満18,700円19,700円1,000円
35 km以上 45 km未満 24,400円25,900円1,500円
45 km以上 55 km未満28,000円32,300円4,300円
55 km以上31,600円38,700円7,100円(最大額)

特に、片道55キロ以上の長距離通勤者に対する非課税限度額は、これまでの3万1,600円から3万8,700円へと大きく上昇しています。

経営者・経理担当者が取るべき具体的なアクション

この改正は、単なる税務上の手続き変更にとどまらず、従業員の福利厚生と満足度、そして企業の給与計算業務の精度に直結します。

アクション1:非課税限度額の即時更新

経理部門は、直ちに給与計算システムや台帳の非課税限度額テーブルを、上記の新しい金額に更新する必要があります。

アクション2:遡及適用と年末調整の準備

今回の改正の最大のポイントは、2025年4月1日に遡って適用されることです。

  1. 対象者の洗い出し: 片道10km以上のマイカー通勤者をリストアップします。
  2. 差額の計算: 2025年4月以降、社員に支払った通勤手当のうち、旧限度額を超えて課税対象となっていた部分について、新限度額を適用した場合の非課税額との差額を計算します。
  3. 所得税の還付処理: 年末調整の際、この非課税枠の増加に伴い、源泉徴収された所得税を還付する処理を実行します。

この作業を適切に行うことで、通勤距離が長く、これまで実費に対し課税額が大きくなっていた社員の所得税負担が軽減され、実質的な手取りが増加します。

まとめ

いつの支給分から適用?
A. 2025年4月支給分から。年末調整で遡及対応が必要
給与計算ソフトはどう対応すべき?
A. 非課税限度額テーブルを新しい金額に更新する
10km未満のマイカー通勤者に影響は?
A. ない。これまでどおりの限度額で処理可能

今回のマイカー通勤手当の非課税限度額の引き上げは、11年ぶりの大きな見直しであり、物価高に苦しむ従業員にとって恩恵をもたらすものです。

従業員の手取りが増えることは、従業員のエンゲージメント向上に寄与します。

しかし経理担当者にとっては、年末調整が通常よりも複雑になります。計算ミスや適用漏れがないよう、特に4月以降のデータを確認し、正確な処理を確実に行ってください。

このほかにも税制改正のニュースは、経営資源、特に「人」に関するコストや手取りに直結する重要な情報です。他の関連する税制改正、例えば「年収の壁」見直しに向けた議論 や「社食補助」の非課税限度額の議論 など、継続的な情報収集が、企業のコンプライアンス維持と健全な経営には不可欠です。

今回のような税制改正や年末調整に関わる実務対応が難しい場合は、経理アウトソーシングのDFEまでお気軽にご相談ください。


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