【特別対談】ファミレス店長から経理エキスパートへ。松尾嘉貞氏に聞く「異色のキャリア戦略-キャリアチェンジはいつであっても遅くない。」

キャリアチェンジはいつであっても遅くない。ファミレス店長から経理エキスパートへ、異色のキャリアから学ぶ「生き抜き方」

今回の記事では、DFE代表の向井と松尾氏の対談から、ビジネスパーソンがこれからのキャリアを生き抜くためのヒントを探ります。松尾氏の異色の経歴と、経理という専門職の未来についての彼の見解は、多くの読者にとって、自身のキャリアパスを見つめ直すきっかけとなるでしょう。

ファミレス店長から経理へ、年収216万円からの再スタート

大学で会計学を専攻しながらも、就職氷河期で希望の経理職に就けなかった松尾氏。大学時代のアルバイト先だった東証一部上場ファミリーレストランに就職し、26歳まで店長として接客サービス業に従事していました。しかし、尊敬する上司たちが40歳前後で心身の限界から退職していく姿を目の当たりにし、将来への不安を覚えたと言います一念発起し、26歳で経理未経験ながら日商簿記2級を武器に転職活動を開始。半年以上の活動の末、町工場での経理事務の職を得ましたが、その年収は216万円という厳しいものでした。人間関係にも苦労し、転職後すぐに退職を考えたこともあったそうです

転機は31歳、上場企業の子会社で開花した才能

キャリアの転機が訪れたのは31歳の時。転職エージェントに登録し、上場企業の子会社の経理責任者として採用されたのです。上場基準の会計に戸惑いながらも、1年後には会計監査もこなせるまでに成長 9。そこから彼のキャリアと年収は大きく向上していきました。松尾氏は、このベンチャー企業での経験が自身の仕事の基盤となっていると語っています

円満退社と人脈がキャリアを拓く

松尾氏はこれまでに8社を経験し、7回の転職をすべて円満退社で行ってきました 。その結果、元上司や元部下との良好な関係が維持でき、新たなキャリアの選択肢が生まれていると言います。特に経理職は閉鎖的な環境で仕事をしがちですが、だからこそ横の繋がりを広げることが重要だと強調しました

AI時代に求められるのは「喋れる経理マン」

AIの台頭で経理職の将来を不安視する声もありますが、松尾氏は「経理職がなくなることはない」と断言します。AIはRPAのような部分的な自動化には役立つものの、最終的なチェックは人間の目が必要であり、そこには実務経験が不可欠だと考えているからですそして、これからの経理職に最も重要なスキルとして「コミュニケーション能力」を挙げました 17。銀行交渉や会計監査など、相手を自分の意図通りに動かすためには「喋れる経理マン」であることが必要であり、黙々とルーティンをこなすだけでは生き残れないと助言しています

まとめ

松尾氏のキャリアは、決して平坦な道のりではありませんでした。しかし、常に現状に満足せず、新たな挑戦を続けた結果、唯一無二のキャリアを築き上げています。彼の生き方から、私たちは以下の3つのことを学ぶことができるでしょう。

  • キャリアチェンジに年齢は関係ない。 強い意志があれば、何歳からでも新しいキャリアをスタートできる。
  • 人との繋がりを大切にする。 円満な人間関係は、将来のキャリアを支える大きな財産となる。
  • 専門性にコミュニケーション能力を掛け合わせる。 AI時代を生き抜くためには、専門知識に加えて、人と対話する力が不可欠である。

松尾氏の今後のビジョンは「後継者の育成」と「人からより求められる場所に身を置くこと」。彼の挑戦はこれからも続きます。40代を迎え、これからのキャリアに悩むビジネスパーソンにとって、彼のストーリーは大きな勇気と希望を与えてくれるはずです。

ここからは松尾氏とDFE代表向井の対談をお届けします。

対談

向井: 松尾さん、本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、松尾さんのキャリアは非常にユニークですよね。大学では会計学を専攻されていたにもかかわらず、新卒でファミリーレストランに就職されたとお聞きしました。

松尾: はい、そうです。私が就職活動をしていた頃は就職氷河期で、希望していた経理専門職の求人がほとんどありませんでした。大卒は総合職という一括りでしたね。そこで、大学時代に店長まで任されていた東証一部上場ファミリーレストランにそのまま就職し、26歳まで接客サービス業に従事していました。

向井: 店長まで!すごいですね。そこからなぜ、未経験の経理職へ転職されようと思ったのですか?

松尾: 当時のファミレス業界は長時間労働が当たり前で、尊敬していた上司たちが40歳前後で心身の限界を理由に次々と辞めていくのを目の当たりにしました。このままでは自分も同じ道を辿ってしまうのではないかと将来に強い不安を感じ、大学で学んだ会計の知識を活かして、手に職をつけようと決意したんです。

松尾 嘉貞
松尾嘉貞氏

年収216万円からの再スタート。苦悩の5年間

向井: 26歳で経理へのキャリアチェンジに挑戦されたわけですね。ただ、未経験からの転職は簡単ではなかったのではないですか?

松尾: おっしゃる通り、非常に厳しかったです。日商簿記2級を武器に半年以上かけて転職活動を行い、ようやく拾ってもらったのが町の工場での経理事務でした。しかし、業績が悪くボーナスはゼロ。年収は216万円からのスタートでした。おまけに、当時の上司とはそりが合わず、人間関係にも悩み、「辞めたい」とばかり考えていましたね。

向井: それは厳しいスタートでしたね…。

松尾: その後、中小企業に転職したのですが、そこでもあまり面白みを感じられませんでした。店長時代は組織のトップとして自分の裁量で動けていたのに、経理になってからは指示される立場になったことへのギャップも大きかったですね。結局、31歳までの5年間は、常に求人情報を眺めているような、憂鬱な日々を過ごしていました。

31歳で訪れた転機。上場企業で開花した才能

向井: そこから、どのようにしてキャリアを切り拓いていかれたのでしょうか?

松尾: 31歳の時、ふと「自分の市場価値はどれくらいだろう」と思い、初めて転職エージェントに登録したのが転機でした。そこで幸運にも、あるITベンチャーの上場子会社に経理責任者として採用されたんです。

向井: 一気にステップアップですね!

松尾: はい。ただ、それまで零細企業しか経験がなかったので、上場基準の会計には右も左もわからず、最初の半年は本社から「本当に経理やってたの?」と厳しい言葉を浴びせられました。しかし、「これは絶対に自分のスキルになる」と信じて必死にくらいつき、1年後には会計監査も一人で対応できるようになりました。このベンチャー企業での経験が、今の私の仕事の基盤になっています。この頃からですね、年収も役職も面白いように上がっていったのは。

松尾 嘉貞
松尾嘉貞氏

AI時代に求められるのは「喋れる経理マン」

向井: 最近はAIの進化によって経理の仕事がなくなるといった話もよく耳にしますが、その点についてはどのようにお考えですか?

松尾: 結論から言うと、経理の仕事がなくなることはないと断言できます。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のように単純な入力作業は自動化されるでしょう。しかし、経理はダブルチェックが基本です。AIが弾き出した数字を100%信用できますか?と。最終的なチェックは、実務経験を積んだ人間の目が必要不可欠です。

向井: 確かにそうですね。では、これからの時代に経理として生き残っていくためには、どのようなスキルが求められるのでしょうか?

松尾: 最も重要なのは「コミュニケーション能力」です。私は「喋れる経理マン」こそが、これからの時代に価値を持つと考えています。例えば、銀行との融資交渉や会計監査の対応など、ただ数字をまとめるだけでなく、その背景を説明し、相手を自分の意図通りに動かす対話力が必要です。黙々とルーティンワークをこなすだけの経理では、AIに代替されてしまうでしょう。

向井: 非常に説得力のある言葉ですね。専門性に加えて、対話する力が重要になると。

松尾: ですから、私が採用面接をするときも、飲食店の店長経験者のような、異業種でコミュニケーション能力を培ってきた方を積極的に採用していました。逆に「ルーティン作業が好きです」という方は採用しませんでしたね。

円満退社と横の繋がりがキャリアを拓く

向井: 松尾さんはこれまでに8社を経験されていますが、その転職のすべてが「円満退社」だと伺いました。

松尾: はい、そこは徹底しています。そのおかげで、以前の職場の上司や部下とは今でも良好な関係が続いていて、それが新しい仕事のオファーに繋がることも少なくありません。先日も、一度退職した会社から「後任が全く仕事ができないから戻ってきてほしい」と役員から直々に連絡があり、転職先に1日で退職願を出して、2日後には元の会社に戻った、なんてこともありました(笑)。

向井: すごいエピソードですね!

松尾: 経理という職種は社内に閉じこもりがちなので、意識的に横の繋がりを作ることが非常に重要です。辞める時も綺麗に去る。そうすれば、年齢を重ねるごとに様々な場所から声がかかるようになります。

これからのビジョン「求められる場所で、後継者を育てる」

向井: 最後に、松尾さんのこれからのビジョンについてお聞かせください。

松尾: 今後の人生で自分の欲はもうありません。これからは、「人から最も求められる場所に自分の身を置くこと」そして「後継者を育成すること」、この2点に集中していきたいと思っています。すでに副業の個人事業として、未経験者に経理の実務を教える講師も始めています。経理を目指す人が一人でも増えてほしいですね。

向井: 松尾塾の門下生が世の中に増えていくわけですね。本日は、40代のビジネスパーソンにとって、今後のキャリアを考える上で非常に示唆に富むお話を伺うことができました。ありがとうございました。

松尾 嘉貞
松尾嘉貞氏

 

編集後記

今回の松尾さんへのインタビューを終えて、まず「経理」という仕事のイメージが根底から覆された、というのが率直な感想だ。

ファミレス店長からの異色の転身、年収216万円からの苦しいスタート、そして「喋れる経理マン」という新しいプロフェッショナル像。松尾さんのキャリアは、まるで一本の映画を見ているかのようにドラマチックであり、それでいて我々ビジネスパーソンにとって非常に示唆に富んでいる。

特に、キャリアの岐路に立つ40代にとって、彼の生き方は大きな勇気を与えてくれるのではないだろうか。「円満退社」を重ねて人脈を財産に変えていく様や、常に自分の市場価値を意識し挑戦を続ける姿勢は、専門職に限らず、すべてのビジネスパーソンが学ぶべき点だろう。

AIの台頭が叫ばれる時代に、専門性に「コミュニケーション」という人間ならではの価値を掛け合わせることの重要性を、松尾さんはご自身のキャリアそのもので示してくれたように思う。

今回の記事が、読者の皆様がご自身のキャリアを改めて見つめ直し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば、これほど嬉しいことはない。

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