税務調査リアルな体験談!調査の流れや知っておくべきコツとは

「税務調査」……と聞くと、なんだか”怖いもの”のように感じる方も多いのではないでしょうか。かくいう筆者もそのひとり。

しかしコツや準備や対策さえしておけば、必ずしも怖くはないようです。

今回は、実際に税務調査を受けた経験を持つ経理マン・松尾嘉貞氏にインタビュー。どんな流れでどんな調査を受けたのか、リアルな体験談を語っていただきました。 知っておきたいテクニック満載ですので、ぜひ最後までご覧くださいね。

必要資料が全部揃っていなかった?!上手に”ごまかす”テクニック

――まずは松尾さんのご経歴を教えていただけますか。

松尾嘉貞氏(以下松尾):私は大学で会計学を学んでいたのですが、卒業後は接客業をしていました。経理の扉を叩いたのは26歳のとき。大学で会計監査論を学んだこともあり、「いつか上場企業の経理部に入る」という目標を立て、町工場からキャリアをスタートしました。転職を重ね、31歳で上場企業に入社。町工場から上場企業まで渡り歩き、役職も平社員から執行役員まで経験しました。

――面白いご経歴ですね。現在はどんな会社にお勤めなのですか。

松尾:大阪に本社を置く某中小企業(以下B社)で経理マネージャーとしてサラリーマンをしながら、CROSS INNOVATIONで代表を務めています。サラリーマンとフリーランスの二足の草鞋です。今回税務調査を受けたのはB社。2024年1月中旬に税務調査を受けました。

B社経理マネージャーでCROSS INNOVATION代表の松尾嘉貞氏

――調査員がいきなり会社にやって来るのですか。

松尾:いいえ。まずは顧問税理士に連絡がありました。「お宅が担当しているB社の税務調査を行いますので、○月○日か×日はどうですか」と、いくつか候補日が挙げられます。その中から都合のいい日を、こちらが選ぶというかたちです。

――強制的ではないのですね。第一報から調査日までは、どれくらい期間があるのですか。

松尾:1ヶ月から1ヶ月半ほどです。その間に必要な資料を準備します。特に税務署から揃えるものの指示はありませんが、経理に携わっている人ならだいたいわかると思いますし、税理士さんは当然わかっています。念のため申し上げると……

  • 総勘定元帳(直近3期)
  • 売上の請求書(直近3期)
  • 原価と経費の請求書の控え(直近3期)
  • 原価と経費の領収書(直近3期)
  • クレジットカードの明細(直近3期)
  • 申告書・決算書(直近3期)
  • 源泉徴収関係(源泉徴収簿、賃金台帳、合計表 、源泉所得税の納付書)
  • 退職所得の受給に関する申告書

特に「退職所得の受給に関する申告書」は、多くの中小企業が抜けていると思いますので注意してください。もし調査を受けることが決まった時点でこの申告書がなければ、あとからデータで作成すればOKです。ただ、紙で作成すると3年前のものなのに紙が新しすぎてしまいますので、必ずデータで作成してください。もし提示を要求されたら、さも「3年前からありました」という顔をしてプリントアウトした紙を持っていけば大丈夫です。

――おぉ、そんな裏技が!B社はこれらがすべてしっかり揃っていたということですね。

松尾:それが……そうでもないのです。税務調査は基本的に過去3年分をチェックします。私がB社に入社したのは約1年半前。それ以前のものには関与しておらず、内容もわかりません。しかも倉庫を探しても資料が見つからない。あぁ、これはマズいぞ……と。

――え!それでどうしたのですか。

松尾:ないものはないのですから、ない状態で挑みました。

――え!大丈夫なのですか。

松尾:いろいろコツがあるのです。順を追って紹介していきますね。

調査員が来たら、まずは長時間の「雑談」を

――税務調査はどれくらいの日数と時間がかかるのですか。

松尾:10時から16時までを、2日間。途中1時間のお昼休憩をはさみますので、1日5時間、2日間で10時間です。

――どんな人が来るのですか。TVで見る家宅捜索みたいに、段ボールを抱えた無表情の人たちが複数人でドカドカやってくるのですか。

松尾:いいえ、そんな人は来ません(笑)。だいたい上席と呼ばれる偉い方と若手の税務署職員(以下調査員)が2名で来ます。10時に来社したら、まずは調査員2名と弊社の顧問税理士、社長、役員、私で”雑談タイム”です。弊社はこの雑談タイムに1時間半を費やしました。これも作戦です。

――雑談ということは、他愛もない会話をするのですか。

松尾:そうです。雑談は短い会社だと15分ぐらいで切り上げて、すぐに調査開始となってしまうようです。ただこっち側がめちゃくちゃ喋れば、雑談で時間が取られます。弊社は5時間のうちの1時間半が雑談でしたので、実質1日目のチェック時間は3時間半。最初の雑談時間が長くなれば、当然その分見る時間は短くなりますよね。さらに税務署の職員さんとも仲良くなれるので和やかな雰囲気になりますし、心証を良くすることで、その後の風向きも随分変わってくると思います。

――なるほど。そうなると、話術やコミュニケーション能力も必要ですね。

作戦満載!言われるまでこちらから言う必要はない

――税務調査はどのように進んでいくのですか。

松尾:はい、調査員は会議室などこちらが用意した部屋で確認作業を行います。部屋には税理士が同席していますが、私たちは別の部屋で通常の業務をしていますので、何か足りないものなどがあれば、調査員は税理士に「○○を持ってきてください」と告げ、税理士が私に伝えにきます。税理士は仲介役に徹するのです。ここにも作戦がいくつかあります。まず、会議室にあらかじめ置いておく資料は、全部ではなく総勘定元帳くらい。

――そうすると呼び出される回数も増え、時間稼ぎとなるわけですね。

松尾:そうです。そしてもうひとつ。調査する部屋は「ここしかない」と言って、わざと狭くて薄暗い部屋を選びました。さらに調査員が座るのはソファー、作業するテーブルは小さくて低いものを用意したのです。物理的に資料を広げられず、腰を曲げてつらい体勢で確認しなくてはならず、薄暗いから文字も読みづらい……という、調査するには過酷な状況にもっていきました。

――面白いですね。いろんな作戦を練ったのですね。ところで、さきほど松尾さんがおっしゃっていた“ない資料”はどうしたのですか。

松尾:ないものはないです。とりあえず指摘があるまでは、こっちからは何も言いません。もちろん言われたものは持っていきますし、そのときになければ「ない」と言うでしょう。でも言われなければ、こちらから言う必要はありません。結果的にない資料の時期まで調査に至らなかったのでしょう。何も言われませんでした。

――仮に調査時間が長ければ「持ってきて」と言われていたかもしれないですから、作戦勝ちですね。

経理たるもの役者であれ!誠実に回答するが、言いなりにはならない

――ではB社は、何も問題がなかったのですか。

松尾:いいえ、もちろん指摘された部分もあります。たとえば小さな指摘であれば、契約書の印紙貼り忘れです。ただ、実はこれはトラップ。印紙を貼っていないことは知っていましたから。

想定通り調査員から「印紙を貼り忘れていますよ」と指摘が入りました。すかさず私はこう答えます。「そうなんです、事前準備していたときに私も気づき貼ろうかと思ったのですが、そんな卑怯なマネはしてはいけない。ありのままのわが社を見てもらおうと思ってそのままにしておいたんです。それにつきましては追徴課税に異議なしです」。正義感丸出しを演じました。

――すごいですね。

松尾:そこに横から税理士が「ここの会社の経理の松尾さん、しっかりしてるでしょ」と調査員に畳みかける。調査員はうんうんと頷く。これで調査員には「真面目な会社なんだな」と印象づけることができます。相手も人間ですので印象操作で良いイメージを作り上げることが大事です。でもこれは茶番劇。印紙を指摘してくるだろうと思っていましたので、税理士とこの一連の流れは事前に打ち合わせ済みでした。経理たるもの役者であれ!です。

――いやぁ、ここまでくると感心しますね。何か大きな問題はなかったのですか。

松尾:ありました。約1年半前に60歳の方が定年退職をし、そこで退職金を支払いました。その後その方を同一賃金・同一役職で再雇用したのです。ここを指摘されました。「同一賃金・同一役職は税務的に退職とは言えないため、退職金は一括費用計上できません」と。

でもこちらにも言い分があります。「就業規則にしっかり”60歳定年”と書いてありますよ。 定年退職のときに“退職金を支払う”と書いてありますよ。うちは就業規則や賃金規定にこんなふうにしっかり書いているから、これはれっきとした定年退職ですよ」と反論しました。調査員の指摘を、なんでもかんでも認めてはダメ。「私たちの意見はこうだ」と主張することが大切です。

――なるほど。これは何を言われても折れない心が必要ですね。

松尾:そうですね。絶対認めないという強い気持ちも必要ですし、説得力のある証拠を用意することも必要です。そのためにも、会社の規約はしっかり定めておくこと。この件に関しては、調査後も税務署と弊社でディスカッションしています。お互いに言い分がありますから、いずれ折り合いをつけて「ここらで手を打ちましょうか」となるでしょう。

調査員は手ぶらでは帰りません。血眼になって必ず何かを見つけます。印紙など小さな指摘でもいい。とにかく調査員は、何らかの追徴課税を持っていくという使命があるのです。企業側は、いかに少額の追徴課税となるようにするかがポイント。もちろん所得隠しなど悪質なものはダメです。そこまでいくと粉飾ですからね。重加算税が加算されますが、それはよっぽどのことです。

――追徴課税の支払いプロセスはどのような流れですか。

松尾:税務調査が終わってから3ヶ月から6ヶ月ぐらい税務署と企業で議論を重ね、落としどころを見つけて、最終的に追徴課税が決まります。そして税理士が修正申告書を作成し追徴課税を納税するのですが、納税後に追徴課税に対する利息・延滞税を支払わなければなりません。

コミュ力・税理士・作戦で税務調査を乗り切る

――松尾さんの巧みな作戦が功を奏しているように感じますが、ほかにアドバイスやテクニックはありますか。

松尾:そうですね。税務署は、総勘定元帳をはじめいろいろな資料をデータで持ち帰りたがります。しかしデータは一切持ち出しさせないこと。全部プリントアウトして紙で渡します。わざわざと思うかもしれませんが、データで渡してしまうと隅々までチェックされます。税務調査の際は「データは渡せません。紙でお渡しします」と言い切る。今後、電子化が進むとどうなるかはわかりませんが、今のところは紙での提出で問題ありません。

――ほかにアドバイスはありますか。

松尾:普段から税理士さんと仲良くなっておくこと。 これはめちゃくちゃ大事なことです。「ちょっと馬が合わないな」と感じているなら、税理士事務所を変更した方がいいと思います。税務調査は二人三脚で対応しますので、お互いをよく思ってない者同士でやってもシナジー効果が発揮できません。 税理士さんは本当に信頼ができ、自分のことも尊重してくれる、良好な関係性を築ける方とお付き合いするのがベストですね。

――さきほどの印紙の演技しかり、B社の税理士さんは信頼できる方のようですね。

松尾:そうですね。もうひとつアドバイスがあります。損益計算書の「営業外損益」「特別損益」は手を抜かずしっかりやることです。損益計算書は、立場によって最初に見る箇所が異なります。営業マンは粗利益、銀行マンは営業利益、経理マンは経常利益を見ます。しかし税務署はこれらを見ません。税務署は税引き前の「当期純利益」しか見ないのです。会社は本業である営業利益はしっかりやるのですが、営業外利益に関しては雑になりがち。たとえ営業外であってもしっかりやることが重要です。

――なるほど。ここまで松尾さんのお話を伺っていると、ある程度のことをやっていれば、税務調査はそれほど怖いものではないように思えますね。

松尾:はい、決して怖いものではありません。会計監査のほうが何十倍も怖いですし大変です。経理は、仕訳やファイリング、フォルダ整理など、日々の業務をサボらずしっかりやりきることが大切。そうしていれば、たとえ税務調査が来ると決まっても、動じることなく対応できるはずです。

――今回のインタビューで、税務調査の印象がガラリと変わりました。日々の経理業務をしっかりやったうえで、「コミュ力」「税理士さん」「作戦」の3つがあれば、税務調査は怖くないですね。松尾さん、今日はとても有益なお話をありがとうございました。