「人事の仕事」といえば、人材の採用や配属管理などを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
しかしビジネスを取り巻く環境が変わり続ける現代において、これまでのような「守りの人事」では柔軟な対応が難しいと感じている企業も多く、近年では「戦略人事」「攻めの人事」という言葉をよく目にするようになりました。
そんな戦略人事や攻めの人事を進める中で注目されるのが「HRBP」。
HRBPは、経営者目線で人事活動を行い、経営戦略や戦略人事を実現させることがミッションです。
この記事ではHRBPがどのような役割を担うのか、HRBPに求められる能力などを解説していきます。
HRBPとは
HRBP(Human Resource Business Partner)とは、企業における人事機能の一つ。
変化や競争が激しくなっている近年の経営環境において、業績向上を目指した戦略を練りながら人事を実行していくことが重要です。
HRBPは人事とビジネスの両方の観点で、経営者や責任者のパートナーとして共に考え、事業成長をサポートする役割を担います。
たとえば「売上目標〇億円の来期の事業計画を達成させるために、どんな人材を採用すべきか」プランニングしたうえで採用すれば、戦略的な採用人事を進めることができるでしょう。経営方針に沿わない人材を採用したり、逆に現場にそぐわない採用計画を立てたりすることもありません。
もちろん採用だけでなく、研修や制度設計などその業務内容は多岐にわたります。事業の発展のための人事領域で戦略を練り実行するのがHRBPです。
HRBPが求められている理由
近年HRBPが注目され求められている理由には、社会環境の変化や人材獲得の難しさが挙げられます。
災害や感染症など、いつ何が起きるか予測できない現代。またAIやDXの推進により専門スキルをもつデジタル人材が欠かせなくなりつつあります。
企業を取り巻く環境は常に変化しており、この変化に適応することは企業にとって必須。できなければ成長させるどころか事業の継続が難しくなる可能性さえあります。
企業が生き残っていくためには、従来の人事機能だけではなく、人事戦略の立案と遂行ができるHRBPが必要なのです。
HRBPの概念
HRBPは、ミシガン大学教授であるデイビッド・ウルリッチ氏が提唱した概念。同氏の著書『MBAの人材戦略』の中で「HRBPモデルには4つの役割がある」と提唱しました。
4つの役割は次のとおりです。
- 戦略実現パートナー
- 管理エキスパート
- 従業員チャンピオン
- 組織改革
戦略実現パートナー
経営陣が計画した経営戦略や事業戦略に則った人事戦略を考案して行動する役割です。
事業戦略と人事戦略を連動させて、人事異動や配置換え、採用や教育を行うほか、従業員一人ひとりに向き合い経営戦略を伝えることや、事業部間のつながりを強めていくことも役割といえます。
管理エキスパート
日本企業の人事がこれまで重視してきた労務管理も行います。
社員の能力やキャリアをデータ化し、業務効率を高める人事をすることも、生産性の高い運営を行うために重要な役割です。
HRBPは事業戦略のためにどのような組織や人材が必要で、それらをどのように開発していくかを考えます。
従業員チャンピオン
HRBPは従業員に経営者の考えや決定を伝え、また従業員の意見を聞きます。従業員の不満や提案を解消しながらも、経営戦略を実現させなければなりません。
いわば経営者と従業員の橋渡しもHRBPの役割です。
また意欲を高めるための人事戦略の策定やメンタルケアや社員のキャリアアップ支援なども行います。
組織改革
HRBPは、組織における「変革」を推進していきます。難しいことですが、時代の変化に適応するためには重要なこと。
経営者の代理人として社員と信頼構築しながら、社員の意欲や活力を引き出すアプローチも行わなければなりません。
HRBPに求められるスキル
HRBPに求められるスキルには、たとえば次のようなものがあります。
- 人事としてのキャリアやスキル
- 高いコミュニケーションスキル
- 自社のビジネスに関する知識や理解
何でも相談できるHRBPになるためには、豊富な知識と経験、センス、そして日々の地道な努力も必要です。
人事としてのキャリアやスキル
HRBPは、人事領域のプロフェッショナルであること前提。単純な労務・法律などの業務知識はもちろん、ビジネスにおける目標達成に必要な人材育成のノウハウも必要です。
高いコミュニケーションスキル
先述のとおり、HRBPは経営者と従業員の橋渡しとなります。従業員一人ひとりの本音を聞き出しそれらを経営者や人事につなげる、逆に経営者の考えや決定事項を従業員に伝えることもHRBPの大きな役割。
つまりHRBPには高いコミュニケーション能力が必要です。
自社のビジネスに関する知識や理解
経営陣と対等に議論できる立場のHRBPは、会社の事業について精通していなければなりません。もちろん日々情報のアップデートも必要です。
また高いレベルでのビジネスセンスや経営視点を持っていることも重要。課題を分析したり解決したりできる知識やスキル、センスが必要です。
HRBPを導入のポイント
HRBPの重要性を感じ導入する企業は増えつつあります。しかし導入しても必ずうまくいくとも限りません。導入する際のポイントをしっかりと抑え、戦略人事を推進していきましょう。
- HRBPの役割を明確にする
- 経営者と対等に話せる人材を登用する
- トライアルを行う
HRBPの役割を明確にする
まずは今後の事業環境や経営戦略を検討し、HRBPの役割を明確にしましょう。
本当にHRBPを設置したほうがいいのか、現状のままでいいのかをしっかり考え、必要であれば導入体制を整えます。
HRBPはアウトソーシングしにくいため、HRBPの導入が決まった際はまずは人材育成に取りかかることが必要です。
経営者と対等に話せる人材を登用する
先述のとおり、HRBPには高いレベルでのビジネスセンスや経営視点、リーダーシップなどが必要です。HRBPの役割をすぐに担える人材は、正直なかなかいません。
しかしいないからといって導入しなければ、企業の存続が危うくなることもあるでしょう。HRBPを実践するためには、社内で育てていく必要があります。
注意すべき点はHRBPが経営者寄りの人材にしないこと。経営者の意思を押し付けるだけになってしまっては本末転倒です。経営者と社員をつなぐことができる人材が適任です。
トライアルを行う
HRBPはいきなり導入するのではなく、トライアルや部分導入から始めましょう。まずは小さな課題から対応し、HRBPとしての経験値を積みスキルアップしていくことが大切です。
運用が安定してきてから本格導入へと進めるべきです。
まとめ
- HRBPは人事領域で事業発展のための戦略を練り実行する
- HRBPは経営者や責任者のパートナー
- HRBPにはビジネス感覚や経営視点が求められる
戦略人事の重要性が高まっている今、HRBPの導入を考えている企業も多いことでしょう。人事の側面から経営を支えるHRBPは、今後ますます重要視されるポジションとなるのではないでしょうか。
しかしHRBPには経営者としての視点や高いコミュニケーション能力が必要です。HRBPを実践するためには、社内で育てていく必要がありますので、導入をすることを決定したのならば、早めに体制を整え、適切な人材の選抜し、攻めの人事に向けて進んでいきましょう。