【連載対談】世界を旅する経営者 vs 日本の中間管理職〜AIを企業が前向きに取り入れるためには?

【連載対談】世界を旅する経営者 vs 日本の中間管理職〜AIを企業が前向きに取り入れるためには?

対談者

  • 石森 宏茂(以下、石森)
    COTO DESIGN, LLC 代表。大企業の新規事業開発や経営企画のコンサルティングを手掛ける。現在はマレーシアに拠点を移し、世界を旅しながら働くノマド経営者。
  • 向井 隆昭(以下、向井)
    大阪のBPO企業であるDFEにて副社長職を務める。40名以上の社員を抱える組織の中で、日々現場の課題と向き合い、人材紹介、採用支援や助成金活用支援など幅広い業務に従事。リアルな中小企業の視点を持つ。

イントロダクション:働き方も価値観も正反対?海外と日本、それぞれのリアル

向井: いやあ、お疲れ様です。さっきまでお客様と話し込んでしまってましたよ(笑)。急に「今週から派遣担当者をアサインしてくれ」ってご要望いただいて、「今週いきなりはさすがに、、、業務サイドと協議して来週なら可能かを検討させていただきます!!!!」ってお伝えしたんですけど「とにかく、なんとかしてくれーーー!」って言われちゃいました。大切なお客様なので何とかしたいんですけどね…。

石森: お疲れ様です(笑)。大変ですね。僕だったら「無理です」って言っちゃいますけど。

向井: それができるのが若社長(石森さん)ですよ!僕は属する側なんで、ひたすら応えるしかないです(笑)。

石森: 会社を大きくしたいとか、もっと儲けたいとか思わなければ、嫌な仕事は断ればいいんですよ。「やりたい人としかやらないんで」って。僕はいまマレーシアですけど、夫婦2人の月の生活費って20万円くらいですから。年間240万円あれば生きていける。

向井: かっこいいなあ…。うちは事務所の家賃だけで月〇〇万ですよ。社員も40人ちょっといますし、維持するのも大変だし、でも事務所としては女性が働きやすいを意識して今のビルを選んでいるので、維持していきたいしと悩みが尽きませんよ。石森さんのように、自分の価値観で生きる経営者と、組織の歯車として生きる僕とでは、見えている世界が全然違いますね。

石森: そうかもしれないですね。でも、どこにいてもリスクはありますよ。世界情勢も不安定だし、災害もある。だからこそ、どこでも住める状態にしておくのが大事かなと。今のビザが切れたら、次はポルトガルに行こうかと思ってます。EUの永住権が狙えるので。

向井: 賢いなあ。グローバルな視点と、日本国内で奮闘する視点。この対照的な2人が、今日のテーマである「研修サービス」について話すと、面白い化学反応が起きそうですね。

AI研修と助成金。中小企業にとっての「現実解」とは?

石森: 最近の福利厚生っていろいろありますよね。向井さんの会社では何か使ってますか?

向井: いろいろ検討はするんですけど、まだ導入には至ってないですね。それよりも今、多くの企業が関心を持っているのが「人材開発支援助成金」です。いわゆるリスキリングなどに使える助成金ですね。

石森: ああ、リスキリング。今、話題ですよね。

向井: はい。例えば、サブスクリプション型の研修サービスを導入した場合、その費用の6〜7割が助成されます。僕らの会社では、その申請書類作成のサポートをしています。社労士さんの独占業務なので代行はできませんが、下書き作成に関するアドバイスや提出前の添削支援を行うことで、助成金使いたいけど大変そうだなぁっていう導入のハードルを下げています。

石森: なるほど。研修を提供する会社から依頼を受けて、導入企業側の申請を手伝う、と。そこで僕たちがAI研修のパッケージを作って、向井さんの顧客の皆さんにご案内してもらうとか可能ですか?

向井: 全然できますよ!お客様のためになるのであれば、喜んでいただけるのであればではありますが。興味のある分野だと思いますしね。中小企業の経営者が何に一番困っているかというと、やっぱり「売上」なんだと思うんですよね。AIを使って売上アップに繋がるなら、早速取り入れようっていう興味を持つ方は多いはずです。

石森: 例えば、営業活動の効率化とか、SNSマーケティングの自動化とか。

向井: まさに。特に営業支援AIは刺さりそうですよね。「AIが24時間365日、文句も言わずにテレアポします」みたいなサービスは始まっていて、話題になってますね。ただ、AIと言っても広すぎるので、「SNSマーケティングを内製化するAI活用法」みたいに、より具体的に絞った方が響くかもしれません。

AI導入の最大の壁。「AIを使いこなせない人」が生まれる根本原因

石森: ただ、そこに大きな課題があると思っていて。AIを使いこなすには、AIの性能以前に、使う側の「人間」のリテラシーが不可欠なんですよ。

向井: と、言いますと?

石森: この前、ある会社で新入社員がAIにお客さん向けのメールを書かせたんです。それをそのまま送ったら、大クレームになった。なぜかと言うと、その新人は「社会人としてのメールの基本」を知らなかった。AIが生成した文章が適切かどうかを判断できなかったんです。

向井: なるほど…。

石森: これは全ての業務に言えます。例えば、AIが素晴らしいマーケティング戦略を提案してきても、それを見た人間が「うん、この戦略でいこう」と判断できなければ意味がない。その判断を下すためには、人間にマーケティングの知識がないといけない。逆説的ですが、AIを使いこなすために、人間はもっと専門性を高める必要があるんです。これを「アップスキリング」と言います。

向井: 確かに。医療の世界で、富士フイルムがCTの画像診断を補助するAIを開発したというニュースがありました。AIが「こういう病気の可能性があります」と初見を出す。でも最終的に診断を下すのは、専門知識を持った医師ですよね。最後の砦に専門家がいるから成立する。

石森: その通りです。ビジネスの現場では、その最後の砦が「素人」であるケースが多い。素人がAIの出した答えを鵜呑みにして実行してしまうことの危うさに、もっと目を向けるべきです。だから僕らが提供する研修は、「AIの使い方」を教えるだけでなく、「AIが出した答えを正しく判断するための専門知識」を身につけてもらうものでなければならない。

効率化の先にある未来。AIは人の仕事を奪うのか、新たな価値を生むのか

向井: となると、AI研修って難しいですね。効率化を進めていくと、どうしても「この人、いらなくなるんじゃないか?」という話に繋がってしまう。

石森: 中小企業の経営者からすれば、コスト削減は常に考えたいことですからね。そこは避けられないジレンマです。

向井: でも、そこで思考停止してはいけない。僕らが提案すべきなのは、こういうストーリーじゃないですかね。まず、①AI導入によって業務を効率化し、「余剰人員」と「時間・資金」というリソースを生み出す。

石森: うんうん。

向井: 次に、②その余剰リソースを、新たな事業領域に投資する。例えば、今まで営業事務をしていた人を、会社の広報担当としてSNSマーケティングに挑戦させる。人を切るのではなく、新しい価値を生むポジションへ配置転換するんです。

石森: なるほど!「業務効率化で生まれたリソースで、会社の未来に投資しましょう」という提案ですね。これなら経営者も前向きに検討できる。そうなると、僕らの役割は単なる研修提供者ではなく、新規事業開発まで伴走するコンサルタントになりますね。

向井: そうです!研修をエントリーポイントにして、最終的には企業の成長戦略そのものを一緒に描いていく。そこまで見据えたパッケージなら、唯一無二の価値を提供できるはずです。

対談から生まれた新たな挑戦へ

石森: 面白い。そのストーリーでやりましょうか。僕のお客さんは大企業が多いですが、向井さんは中小企業のリアルを知っている。この組み合わせは強みになりますね。

向井: ええ。まずは僕らの対談自体をコンテンツにして、情報発信していくのはどうでしょう?note.や両社のブログで連載するんです。「世界を飛び回る経営者と日本の中間管理職が語る、大企業と中小企業それぞれのリアル」みたいなテーマで。

石森: いいですね!僕も常にインプットはしていますが、それを定期的に発信する場が欲しかったんです。僕が大企業のカルチャーについて話し、向井さんが中小企業のあるあるを話す。オーナー企業と雇われ社長の違いとか、海外から見た日本とか、テーマは尽きないですね。

向井: その発信を見て「面白いな」と思ってくれた方から、問い合わせが来たら最高じゃないですか。

石森: 決まりですね。まずは来月、この対談連載の第1回をやりましょう。

向井: ぜひ!いやあ、今日のブレストは本当に有意義でした。ありがとうございました!


【編集後記】
働き方も拠点も正反対の二人による対談は、AIというテクノロジーの話から、いつしか「人間の専門性」や「企業の成長戦略」という本質的なテーマへと深化していった。AIが人の仕事を代替する時代だからこそ、人間にしかできないことは何かを問い直し、新たな価値創造へと繋げる。そんな未来へのポジティブな視座が、今回の対談から見えてきた。二人がこれから始める新たな挑戦に、ぜひ注目していきたい。

石森さんやDFE向井への質問がございましたら遠慮なく下記よりご連絡くださいませ。

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