7月1日、月曜日の朝。株式会社データ・ファー・イースト(DFE)のオフィスは、いつもと少し違う緊張感と期待感に包まれていました。
それもそのはず。この日、私たちの会社に新しい歴史が刻まれたのです。
長年、営業の最前線でお客様と向き合い続けてきた向井隆昭が、代表取締役社長に就任しました。
突然の大役に「いやあ、荷が重いよ…」とこぼしながらも、その目は未来を見据えている──。そんな新社長の向井が、まず教えを乞うたのは、世界を舞台に活躍するCOTO DESIGNの石森宏茂氏。
M&Aによる事業承継、AIとの共存、そしてこれからの働き方。激動の時代を乗りこなすためのヒントが詰まった、新社長・向井の「最初の仕事」とも言える対談を、ぜひご覧ください。
対談者
- 石森 宏茂(以下、石森)
COTO DESIGN, LLC 代表。大企業の新規事業開発や経営企画のコンサルティングを手掛ける。現在はマレーシアに拠点を移し、世界を旅しながら働くノマド経営者。 - 向井 隆昭(以下、向井)
大阪のBPO企業であるDFEにて社長を務める。40名以上の社員を抱える組織の中で、日々現場の課題と向き合い、人材紹介、採用支援や助成金活用支援など幅広い業務に従事。リアルな中小企業の視点を持つ。


石森: 早速今日も始めていきましょうか。早速ですけど、社長になったって聞きましたよ!
向井: そうなんですよ、若社長。7月1日付で社長になっちゃいましたね(笑)。
石森: じゃぁ森口社長は会長に?
向井: ええ、会長になりました。うちはM&Aで株式を全部譲渡しまして、約5000人規模の企業グループの一員になったんです。それで、親会社からも取締役が1名加わって、新しい取締役体制になりました。
石森: なるほど、M&Aですか!じゃあ、こんなところでオンラインミーティングしてる場合じゃないんじゃないですか?(笑)
向井: いやいやいや!これも大事な仕事ですよ!先輩社長である石森さんから色々教わらないと。僕は今まで営業ばっかりやってきたんで、いきなり経営者になっても分からないことだらけで…。
石森: 面白いじゃないですか。でも、そもそもどういう経緯で?
向井: 実は、もともとは親会社からどなたかが社長として来る予定だったんです。でも、MAの交渉を進める中で「いや、向井がやった方がいいんじゃないか」という流れに…。
石森: それは先方の意見で?
向井: そうなんです。変化が大きすぎると、お客様にも社員にも動揺が走るだろうと。事業をスムーズに継続させることを最優先した結果ですね。僕自身、正直どうしていいか分からないけど、頑張ります!としか答えようのない感じでしたね(笑)。
石森: いや、素晴らしいですよ。よく「社長になる人が社長になるんじゃない。社長になった人が社長になるんだ」って言うじゃないですか。立場が人を作るんです。向井さんは、これから社長になっていくんですよ。
向井: そうなんですかねぇ…。だといいんですけど。
石森: 絶対そうですよ。多くの場合はそうです。まずは「形から入る」のもすごく大事。例えば、お客様への挨拶回りはビシッとスーツを着ていくとか、就任の挨拶状を手書きで送るとか。そういう一つ一つの行動が、自分自身にも「社長なんだ」って意識を刷り込んでいくし、周りの見る目も変えていきますから。

石森: DFE社はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が事業の核ですよね。まさに今、AIとの共存が問われる業界のど真ん中にいるわけですが、新社長として、この先の戦略はどう考えていますか?
向井: まさに今、社内でも議論しているところです。僕らの基本的なスタンスは、社内外においてなんですが「AIに置き換えられる業務はどんどん置き換える」べきだし、その「導入支援も僕たちがやります」よ、というものです。
石森: なるほど、AIを敵と見るんじゃなくて、ツールとして活用していくと。
向井: はい。ただ一方で、お客様からは「やっぱり人にやってほしい」という根強いニーズもあるにはあるんですよね。特に、イレギュラーな対応や相談事なんかはそうですよね。だから、これからは役割分担がより明確になっていくんだと思います。
石森: AIと人の役割分担、ですか。
向井: ええ。もうすでに着手していってるんですが、単純なルーティンワークはAIに任せて効率化する。そこで生まれた人間のリソースを、人にしかできない付加価値の高い業務に振り向ける。例えば、AIが出したデータを基にお客様の経営課題についてディスカッションしたり、資金繰りの相談に乗ったり。AIを駆使するオペレーターから、お客様に寄り添うパートナーへと進化していくイメージです。ここもAIでもちろん賄えるんですけど、人がいいよねっていう領域はまだ人がやるべきじゃないかなって。
石森: 面白いですね!それって、BPOビジネスが単なる作業代行から、「AI+人によるハイブリッドなコンサルティングサービス」に変わっていくということですよね。フィリピンやマレーシアは世界のBPO拠点ですが、コールセンター業務などはどんどんAIエージェントに置き換わっています。Amazonのコールセンターなんて、問い合わせのほとんどが「不良品」「交換」「届かない」みたいにパターン化できるから、AIの得意分野。でも、DFEがやろうとしているのは、その先の領域ですね。
向井: そうありたいと思っています。最終的なアウトプットはAIが出すかもしれないけれど、そのプロセスを管理して、お客様の課題解決というゴールまで伴走するのは、やっぱり「人」でありたい。そこはまだ僕たちの価値になるのかなと。

石森: 新体制で成長を目指す上で、もう一つ重要なのが「ターゲット戦略」です。どの市場で、どこまでの成長を目指すのか。これを明確にしないと、あっという間に競争に飲み込まれてしまいます。
向井: 会計ソフトのfreeeやマネーフォワードが良い例ですよね。もともとは個人事業主や僕らのような中小企業がメインターゲットだったのに、上場して成長を求められる中で、今や大企業(エンタープライズ)市場にどんどん進出している。
石森: そうなんです。その結果、元々のコアだった個人向けサービスが値上げされたり、手薄になったりして、「あれ、誰のためのサービスだったんだっけ?」ってことにもなりかねない。DFEはどの層をメインターゲットにしていくんですか?
向井: 僕らは、これからもずっと中小企業のお客様が中心です。エンタープライズ向けもご相談いただければではありますが、中小企業は本当に面白いし日本の柱だと思うんですよね。だから個人的にも一緒に走りたいって気持ちが強いです。やっぱり泥臭い現場の方が性に合ってるんじゃないかな(笑)。
石森: 良いですね!だとしたら、その中小企業という市場が、今後どれくらいのスピードでAI化していくのかをしっかり見極めることが重要になります。「人に頼みたい」というニーズはなくならないと思いますが、その市場規模、つまりパイの大きさを読み違えると、成長戦略そのものが成り立たなくなる。
向井: なるほど…。自分たちが目指したい成長の大きさと、ターゲット市場の未来。その両方を天秤にかけて、戦略を立てていく必要があるんですね。

石森: AIの話になると、どうしても「人間の仕事はなくなるのか?」って議論になりますけど、働き方そのものが根本から変わっていくんでしょうね。
向井: 本当にそう思います。シリコンバレーの優秀なエンジニアたちが、「たったワンクリックを増やすためにコードを書くっていう業務より、もっと人間らしい仕事がしたい」って、カフェの店員やヨガのインストラクターに転職している、なんて話も聞きますし。
石森: 人間らしくありたい、という欲求は普遍的なものですからね。僕が最近、海外に出ていてすごく感じるのは、これからの若い世代にとって「大卒」という資格が、めちゃくちゃ重要な「チケット」になるだろうということです。
向井: え、どういうことですか?学歴よりもスキルだ、みたいな風潮もありますけど。
石森: 日本にいると分かりにくいんですが、海外でデスクワーカーとして働こうと思ったら、大卒じゃないとまず就労ビザが下りない国がほとんどなんです。高卒だと、選択肢は肉体労働などに限られてしまう。つまり、「どこでも働ける自由」を手に入れるための最低条件が、大卒資格になっている。学ぶ内容ももちろん大事ですが、その「チケット」を持っているかどうかが、人生の選択肢の幅を大きく左右する時代になると思います。
向井: なるほどなあ…。今の子供たちが大人になる頃には、一体どんな社会になっているのか。今の教育のままでいいのか、すごく考えさせられますね。
M&A、そして突然の社長就任という大きな転換点を迎えたDFE向井。その視線は、自社の未来だけでなく、AIによって激変する社会全体の働き方、そして未来を担う世代の教育にまで及んでいた。
石森氏が語った「立場が人を作る」という言葉通り、新たな役割を得た向’井氏が、これからどんな「社長」の顔を見せてくれるのか。DFEをどんな未来へ導いていくのか。今回の対談は、そのエキサイティングな物語の始まりに過ぎないのかもしれません。
今回の対談で語られた内容を、Q&A形式で分かりやすくまとめました。
Q1. M&Aや事業承継で、いきなり経営者(リーダー)に。まず何から始めればいい?
A1. まずは「形から入る」ことが重要です。
対談の中で石森氏は「立場が人を作る」と語りました。新しい役割に戸惑う時こそ、服装を整えたり、取引先に手書きの手紙を送ったりと、意識的に「経営者らしい」行動をとることが大切です。そうした一つ一つの行動が、自分自身の意識を変え、周囲からの信頼を育む第一歩になります。
Q2. AI時代、「人にしかできない仕事」の価値ってどうやって高める?
A2.「作業代行」から「課題解決のパートナー」へ役割を進化させましょう。
単純なルーティンワークはAIに任せ、そこで生まれた時間を使って、お客様との対話やコンサルティングといった、より付加価値の高い業務に注力することが求められます。AIを「競争相手」ではなく「優秀な部下」と捉え、AIが出したデータをどう解釈し、どうお客様の成功に繋げるか。その「人間力」こそが、これからのビジネスの価値になります。
Q3. これからの時代、どんなスキルや資格が「武器」になる?
A3. 専門スキルはもちろん、「大卒資格」がグローバルな活躍の「チケット」になる可能性があります。
国内だけでなく海外も視野に入れると、「大卒」という資格が就労ビザ取得の最低条件となる国は少なくありません。学ぶ内容以上に、「どこでも働ける」という選択肢を確保するためのパスポートとして、大学で学ぶ価値が再評価されるかもしれません。変化の激しい時代だからこそ、自身のキャリアの選択肢を狭めないための準備が重要です。
石森さんやDFE向井への質問がございましたら遠慮なく下記よりご連絡くださいませ。