常時従業員が10人以上いる会社では、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出ることが義務づけられています。
就業規則には賃金に関することを必ず盛り込まなければなりません。
お金に関することはトラブルにつながりやすいため、詳細なルールを決めておくことが、会社と従業員双方にとって大切。
就業規則には賃金に関する大まかなルールを記述し、就業規則とは別に、より細かく記された給与規程や賃金規程を作成することが一般的です。
今回は、給与規定の作成ルールや注意点などについて解説します。
給与規程(賃金規程)とは、従業員の給与や報酬に関する基準やルールを定めた文書のこと。
就業規則では賃金に関する大まかなルールを記述し、給与規程で細かなルールを定めることが一般的です。正社員・パート・臨時社員などの給与規程について、それぞれ作成する会社もあります。
労働者が安心して働ける職場をつくり、会社を成長させるためにも、賃金に関するルールは必要不可欠なものです。就業規則や給与規定を作成し、従業員に周知することは会社の義務でもあります。
なお常時10人以上の従業員がいる会社では、就業規則を作成して労働基準監督署長に届け出なければなりませんが、就業規則と別に給与規程を作成する場合は、就業規則とともに労働基準監督署への提出が必要です。
就業規則に必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、必ずしも就業規則に記載する必要がない「相対的必要記載事項」があり、賃金規定の基本的な部分は「絶対的必要記載事項」、一部は「相対的必要記載事項」に表記されます。
給与規定に必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」は次のようなこと。
- 賃金の決定方法
- 賃金の計算・支払い方法
- 賃金の締め切り日や支払い時期
- 昇給に関する事項
「賃金の決定方法」は、例えば以下のような賃金の構成(基本給・諸手当等)を規程しておくことが大切です。
パート従業員がいる場合は、以下の記載も必要です。
- 昇給の有無
- 退職金の有無
- 賞与の有無
- 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する相談窓口
制度を設けた場合に記載しなければならない項目は、以下のようなことです。
- 退職手当が適用される労働者の条件と範囲
- 退職手当の決定や計算、支払い方法
- 臨時の賃金(賞与)
- 最低賃金額
厚生労働省のホームページには「モデル就業規則」が掲載されています。こちらを参考に、自社に応じた就業規則を作成し、届出をしてください。
給与規程を作成する際は、以下のルールに留意しなければなりません。
就業規則例
- 賃金支払いの5原則を満たしている
- 最低賃金を下回らない
- 休業手当を定める
- 出来高払い制の保障給を定める
労働基準法が定めている次の賃金のルール「賃金支払い5原則」を満たすよう、給与規程を制定しなければなりません。
- 通貨払い
- 直接払い
- 全額払い
- 毎月1回以上払い
- 一定期日払い
なお1の通貨払いは、本人の同意があれば口座振込みでも構いません。
また4の「毎月1回以上払い」の例外として認められるのは「臨時的な賃金」のみ。
年俸制を採用する会社であっても、1年間の年俸を1度に支払うことは許されておらず、12分割して毎月支払うことが必要です。
労働基準法28条では「最低賃金」を設けています。この最低賃金を下回らないように設定しなければなりません。
賃金の最低限度額は、地域別、産業別に規定されています。ほぼ毎年改訂が行われているため、最低賃金ギリギリの賃金を設定している場合は、必ず毎年最低賃金を確認しましょう。
なお最低賃金の対象は、基本給と諸手当です。手当のうち「精勤手当」「通勤手当」「家族手当」は対象外となります。
労働基準法26条では、使用者(会社など)の責に帰すべき事由によって休業する場合、平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないと規定しています。
使用者の責に帰すべき事由とは、経営悪化による業務量の減少やストライキなど。地震や台風が理由の休業は使用者の責に帰すべき事由ではないので、休業手当を支給する必要はありません。
労働基準法27条では、出来高払い制その他の請負制の労働者に対し、労働時間に応じて一定額の賃金保障をしなければならないと規定しています。
仮に労働の成果がゼロの場合でも、一定額の賃金を支払わなければなりません。
保障額について明確な定めはありませんが、前述の休業手当を参考に、平均賃金の100分の60以上とするケースが多いようです。
給与から天引きできるものは「法令の定めによるもの」と「労使協定を締結したもの」に区分されます。
給与規程を作成する際は、その内容もよく理解しておきましょう。
所得税
住民税
健康保険料
厚生年金保険料
雇用保険料
労働組合費
社宅・寮の使用料
給食費
親睦会費
旅行積立金
給与規定を変更する場合も、基本的には作成時と同じ手順で行います。
- 変更案を作成して経営陣の承認を得る
- 従業員の過半数代表者の意見を聴取する
- 意見書を添付して変更した給与規定を労働基準監督署に提出する
- 変更内容を従業員に周知する
賃金を下げるなどの従業員が不利益になる変更は、合理的である必要があります。原則、従業員からの個別の同意を得ていない不利益な給与規程変更はできません。
給与規程には、法律や社内ルールが多く存在します。十分に理解したうえで作成や変更することが重要です。
社内事情に合った内容であることはもちろん、従業員のモチベーション向上につながる給与規程となるよう、しっかりと検討しましょう。トラブルを避けるためにも、給与規程は詳細に記載することをおすすめします。