「人材開発支援助成金」とは、事業主が従業員に対して職業訓練などを実施した場合に、費用の一部を国が助成する制度。
人材不足が深刻な今、優秀な人材の採用や確保、個々のさらなるスキルアップが、企業利益の向上へとつながるでしょう。
以前は「キャリア形成促進助成金」という名称でしたが、名称や内容など少しずつ形を変えながら現在も続く人気助成金で、2024年3月現在は7つのコースに分けられています。
2023年4月から、雇用関係助成金ポータルでの電子申請が可能となり、以前よりも申請手続きが進めやすくなりました。
今回は人材開発支援助成金の内容について詳しく解説します。
人材開発支援助成金とは、事業主が従業員に対して知識や技能を習得させるための職業訓練などを実施した場合に、その費や訓練期間中の賃金の一部を国が助成する制度です。
次の7つのコースに分けられています。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
ここからはそれぞれのコースについて詳しく解説していきましょう。
人材育成支援コースは、職務に関する知識や技能を従業員に習得させるための訓練を実施した場合にかかる費用の一部を助成するコースです。
以前設けられていた「特定訓練コース」「一般訓練コース」「特別育成訓練コース」の3コースを統合し、令和5年4月より「人材育成支援コース」が創設されました。
下記の訓練を実施した際の経費や期間中の賃金の一部が助成されます。
- 【人材育成訓練】職務に関連した知識やスキルを習得させるための10時間以上のOFF-JT
- 【認定実習併用職業訓練】中核人材を育てるためにOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練
- 【有期実習型訓練】非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指しOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練
賃金助成は上記3つの訓練すべて同じ助成額です。
賃金助成
1人1時間あたり760円(※+200円)/中小企業以外380円(※+100円)
経費助成は訓練ごとに助成金額が異なります。
人材育成訓練
正規雇用労働者:実費相当額の45%(※+15%)/中小企業以外30%(※+15%)
非正規雇用労働者:実費相当額の60%(※+15%)
正社員化した場合:実費相当額の70%(※+30%)
認定実習併用職業訓練
実費相当額の45%(※15%)/中小企業以外30%(※15%)
【OJT実施(定額)助成】
1人1訓練あたり20万円(※+5万円)/中小企業以外11万円(※+3万円)
有期実習型訓練
非正規雇用労働者 実費相当額の60%(※+15%)
正社員化した場合 実費相当額の70%(※+30%)
【OJT実施(定額)助成】
1人1訓練あたり10万円(※3万円)/中小企業以外9万円(※3万円)
※賃金要件又は資格等手当要件を満たす場合(以下同様)
教育訓練休暇付与コースは、有給での教育訓練制度を導入し、労働者が教育訓練休暇を取得し訓練を受けた場合に、事業主に対し助成されます。
このコースは令和8年度までの期間限定助成です。
下記の3つの助成が用意されています。
- 【教育訓練休暇制度】3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇を導入
- 【長期教育訓練休暇制度】30日以上の長期教育訓練休暇の取得が可能な制度を導入
- 【教育訓練短時間勤務等制度】30回以上の所定労働時間短縮および所定外労働時間の免除が可能な制度を導入
賃金助成は【長期教育訓練休暇制度】のみが該当します。
賃金助成
1人1日あたり6,000円(※+1,200円)
経費助成は制度ごとに助成金額が異なります。なお 経費助成は、事業主単位で一度限りの支給です。
【教育訓練休暇制度】
30万円(※36万円)
【長期教育訓練休暇制度】
20万円(※24万円)
【教育訓練短時間勤務等制度】
20万円(※24万円)
人への投資促進コースは、デジタル人材の育成や、従業員の自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)などを実施した場合の、経費や賃金の一部を助成するコース。
次の訓練を実施した際に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
- 【高度デジタル人材訓練】イノベーションを推進する高度なスキルを持つ人材育成
- 【成長分野等人材訓練】海外も含む大学院での訓練
- 【情報技術分野認定実習併用職業訓練】IT分野関連のOFF-JT+OJTの組み合わせの訓練
- 【定額制訓練】サブスクリプション型の研修サービス
- 【自発的職業能力開発訓練】労働者の自発的な訓練費用を事業主が負担した訓練
- 【長期教育訓練休暇等制度】長期教育訓練休暇制度30日以上の連続休暇取得、所定労働時間の短縮と所定外労働時間の免除制度
このコースも令和8年度までの期間限定助成です。
賃金助成が該当するのは「高度デジタル人材訓練」「成長分野等人材訓練」「情報技術分野認定実習併用職業訓練」「長期教育訓練休暇等制度」です。
賃金助成
【高度デジタル人材訓練】
1人1時間あたり960円/中小企業以外480円
【成長分野等人材訓練】
国内大学院の場合1人1時間あたり960円
【情報技術分野認定実習併用職業訓練】
1人1時間あたり760円(※+200円)/中小企業以外380円(※+100円)
【長期教育訓練休暇等制度】
1人1日あたり6,000円(※+1,200円)
経費の助成率および助成額は次のとおり。
【高度デジタル人材訓練】
75%/中小企業以外60%
【成長分野等人材訓練】
75%
【情報技術分野認定実習併用職業訓練】【定額制訓練】
60%(※+15%)/中小企業以外45%(※+15%)
【自発的職業能力開発訓練】
5%(※+15%)
【長期教育訓練休暇等制度】
制度導入経費20万円(※+4万円)
また【情報技術分野認定実習併用職業訓練】OJT実施助成額は次の通り。なおOJT実施助成額は、1人1訓練当たりの額(定額)です。
【情報技術分野認定実習併用職業訓練】OJT実施助成額
20万円(※+5万円)/中小企業以外11万円(※+3万円)
建設労働者認定訓練コースは、建設労働者の技能を高めることを目的とした、職業能力開発促進法で規定された建設関連の訓練を受けることで、講習や技能実習にかかった経費や賃金の一部が助成されます。
経費助成:対象経費の6分の1にあたる額
賃金助成:1人1日あたり3,800円(※+1,000円)
建設労働者技能実習コースは、雇用する建設労働者に、技能の向上のための実習を有給で受講させた場合に経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されるもの。
対象となる事業主は資本金や出資の総額が3億円以下、労働者数が300人以下の建設事業主です。
経費助成率
20人以下の中小建設事業主:支給対象費用の3/4
21人以上の中小建設事業主:35歳未満→支給対象費用の7/10、35歳以上→支給対象費用の9/20
中小建設事業主以外の建設事業主:支給対象費用の3/5
賃金助成
20人以下の中小建設事業主:1人あたり日額8,550円(建設キャリアアップシステム技能者情報登録者9,405円)
21人以上の中小建設事業主:1人あたり日額7,600円(建設キャリアアップシステム技能者情報登録者8,360円)
障害者職業能力開発コースは、障害者に対して職業に必要な能力を開発、向上させるための教育訓練にかかる経費を助成するもの。
次のような方たちが訓練対象者です。
- 身体障害者
- 知的障害者
- 精神障害者
- 発達障害者
- 高次脳機能障害のある者
- 難治性疾患を有する者
施設・設備の設置や整備:支給対象費用の3/4
運営費:支給対象費用の3/4(重度障害者等は4/5)
事業展開等リスキリング支援コースは、企業の持続的発展のために必要となる知識やスキルを習得させるための訓練経費や賃金の一部が助成する制度。
令和8年度までの期間限定助成です。
経費助成
実費相当額の75%/中小企業以外:60%
賃金助成
1人1時間あたり960円/中小企業以外480円
人材開発支援助成金の申請は、コースによってフローが異なります。基本的な流れは次のとおりです。
- 職業能力開発推進者の選定
- 事業内職業能力開発計画の策定
- 都道府県労働局へ訓練計画の提出
- 訓練等の実施
- 労働局へ支給申請の提出
- 審査後、助成金支給
人材開発助成金には注意点がいくつかあります。例えば次のようなことです。
- 研修終了後に審査がある
- 研修により一時的に人手不足に陥る
- コースごとの支給要件が複雑
- 申請にあたって手間と時間がかかる
人材開発支援助成金は、研修終了後に支給申請をします。その後審査を経て支給・不支給が決まるため必ずしも支給されるわけではありません。
また研修期間中は一時的に人手不足に陥るため、本業に支障をきたす場合があります。
そしてなんといっても支給要件が複雑で、申請も煩雑。手間と時間がかかりますが、期限を過ぎると申請できなくなってしまうため、十分に注意しましょう。
支給要件など詳細はしっかりと厚生労働省のHPをご確認ください。
人材開発支援助成金は、従業員のスキルを高め、企業の発展につなげていくことが目的の助成金。
支給要件を満たしているのであれば積極的に活用していきましょう。
ただし注意点でも述べたように、研修終了後に支給申請をし、その後に審査があるため、必ずしも支給されるわけではないことを留意しなければなりません。
とはいえ、人材育成は会社の成長につながるチャンスです。上手に活用してください。