【中小企業のためのDX推進とAI導入】経済産業省がガイドブックを公開

近年、当たり前に耳にするようになった「DX」。

経済産業省もDXを推進しており、多くの企業がその重要性を認識しているにもかかわらず、「どのようにDX推進していけばいいのかわからない」という声も聞こえてきます。

またDXを推進するため「AI」の導入を進めている企業も多いですが、最新のAIを導入すればDXが成し遂げられるというわけではありません。

ではDXとAIは何が違い、どのような関係性なのでしょうか。

この記事ではDXとAIについて紹介します。

DXとは

DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略。Transformationの意味は「変容」なので、DXを直訳すると「デジタルによる変容」となります。

経済産業省は「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」を公開。

そこには「デジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、データやデジタル技術を使って、顧客目線で新たな価値を創出していくこと。また、そのためにビジネスモデルや企業文化等の変革に取り組むことが重要」と書かれています。

経済産業省によるDXの定義はビジネス視点です。企業がデジタルの力を使って最適な経営戦略に導き新しい価値創出することをDXとしています。

一方で広義でのDXは「デジタル技術やデータを活用し、私たちの生活全般を豊かに変える」ことを示します。

AIとは

AIとは、Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)の略で、日本語では「人工知能」と訳されることが大半です。

しかしAIの定義は、専門家の間でも定まっていません。

一般的にAIは、人間の行動パターンや感情データをデジタル上に学習させ、人間のような知能を持ち判断するシステム。学習させる必要があり、学習させることでどんどん進化していきます。

学習させる方法や学習させるデータによってAIの判定は変わり、学習させてもAIの判定が100%正確とも限りません。またAIによる差別や冤罪、個人情報の流出などのリスクもあることを忘れてはいけません。

とはいえ、AIは、DX推進に有効な手段として期待されています。

単純な仕組みのものから複雑なものまでさまざまな種類があり、近年では安価で手軽なツールも出ていますが、まだまだ導入に至る中小企業は少ない状況です。

DXとAIの関係性

「DXを推進するためにAIを導入する」のは間違いです。

AIはDXを実現するための”手段のひとつ”であって、AIを導入しただけではDXは実現できません。

「AIを使って何ができるか?」といった発想ではなく、「DXで実現したい未来は?そのためにどんな手段を使うべきか?」そう考えたうえで、以下のようなさまざまな技術を活用し、戦略的に取り組んでいくべきなのです。

  • AI(人工知能)
  • IoT(インターネットに繋がったセンサー)
  • ICT(情報伝達技術)
  • RPA(ソフトウェアロボットを使用し業務を自動化)
  • 5G
  • サイバーセキュリティ …など

IT化することがDXではありません。IT化はDXの手段であり、DXはIT化の先にある目的。DXはプロセスを変化させることといえるでしょう。

DXで何を目指すのかをしっかりと定め、その実現のために必要なデジタル技術を検討しましょう。

公開された「DXの手引き」と「AIのガイドブック」

2020年経済産業省は、企業が自主的にDX推進に取り組むため、経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめました。

しかしDX銘柄の選定対象となっている企業は大企業が多く、中堅・中小企業にとってこれらの事例は参考にしにくかったのです。

こうして2022年4月8日、新たに中堅・中小企業向けのガイドブックが公開されました。

公開されたDXの手引きでは、DXの進め方やデジタルガバナンス・コードを実践している例等を紹介しています。

またAI導入ガイドブックは、これからチャレンジする企業向けや、すでに保有している企業向け、またジャンルに分けたガイドブックなどが用意されています。

DXの推進で最も大切なのが、経営のトップがしっかりと目的を定めること。そのうえで導入するデジタル技術の検討、予算や人材、現場との意思疎通などを行わなければDXの実現は不可能です。

DXが進まない理由

これほどまでにDXの推進を呼びかけているにもかかわらず、なかなか日本企業のDXが進まないのはなぜでしょうか。

大きく3つの課題があります。

  • レガシーシステムの問題
  • IT人材不足
  • 経営者の認識の甘さ

レガシーシステムの問題

レガシーシステムとは、「旧型のシステム」のことを指します。日本企業の約8割がレガシーシステムを使用しているといわれ、老朽化、肥大化、複雑化し、さらにそのシステムに詳しい人材がおらずブラックボックス化してしまっています。

レガシーシステムの運用・維持には多大なコストがかかり、トラブルやセキュリティなどさまざまなリスクを伴いますが、新しいシステムに刷新するには莫大なコストがかかるうえ、使い勝手が変わることで新しい技術の習得が必要となることなどが課題です。

IT人材不足

レガシーシステムには古いプログラミング言語が使われています。しかしその古いプログラミング言語を知っている人材が供給できていません。

また最新技術を習得している人材も不足しています。国内においてIT人材不足は深刻な問題。

レガシーシステムの運用・保守に多くのコストや人材が投入され、レガシーシステムを捨てたくても新たなシステムを構築する人材がいないという現状。IT人材不足はDXが進まない大きな理由のひとつです。

経営者の認識の甘さ

今後の企業競争力にDXは欠かせないと、多くの経営者がわかってはいます。しかしコストや人材などの課題、また具体的にどのように取り組めばいいのかがわからず、後回しになっている企業が多いのが現状です。

企業のDXは、企業文化そのものが変化すること。そのためDXの実現は、経営者にかかっていると言っても過言ではありません。

DXは目的ではなく手段。経営者は「DXでどのようなことを成し遂げたいのか」を明確にし、経営戦略やビジョンを社内全体に伝えることが必要です。

「2025年の崖」とは

DXについて情報を集めていると「2025年の崖」という言葉が散見します。

「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」の中で使われた言葉。

既存のITシステム(レガシーシステム)の複雑化・老朽化・ブラックボックス化により、国際競争への遅れや日本経済の停滞などを危惧しています。

このまま課題が解決されなければ、DXが実現できないばかりでなく、2025年以降に最大で毎年12兆円もの経済損失が生じる可能性があると指摘。

逆にもしDXが実現できれば、2025年~2030年に実質GDP130兆円超の押し上げができるとも述べられており、「2025年の崖」という言葉を使い、経済産業省はDXの推進が不可欠であることを示しています。

まとめ

  • DXは今後の企業競争力に必要不可欠
  • AI導入=DX実現ではない
  • さまざまな技術を複合させてDXに活用
  • DXが実現できれば実質GDP130兆円超の押し上げも
  • DXが実現できなければ毎年12兆円もの経済損失も

経済産業省が中堅・中小企業向けにDXの手引きとAIのガイドブックを公開したことからも、今後の日本経済においてDX推進は必要不可欠なことがわかります。

DXを実現するためにAIが大きな手助けとなることは間違いありませんが、AI導入だけではDXは実現しません。経営陣はしっかりとしたビジョンを立て、実現のためにはどんな技術を活用すべきかを見極めることが重要です。