なぜ山形へ?Iターンで見つけた、地方を元気にする新たな働き方~サンロクIT女子を仕掛ける門沢宏征氏に聞く地方振興との関わり方

なぜ山形へ?Iターンで見つけた、地方を元気にする新たな働き方 ~サンロクIT女子を仕掛ける門沢宏征氏に聞く地方振興との関わり方~

「なぜ、彼は山形を選んだのか?」

首都圏でキャリアを積んだ人材が、地方へと活躍の場を移す「Iターン」。その選択の裏には、どんな想いが隠されているのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、山形県を拠点に、女性のITスキル向上と就労支援を行うプロジェクト「サンロクIT女子」を仕掛ける門沢宏征氏。彼のIターンという一つの決断から始まった活動は、今や地域の産業振興に新しい風を吹き込んでいます。

門沢氏のストーリーから、私たちが「地方を元気にする」ためにできること、そして未来の働き方のヒントを探ります。

対談者紹介

Iターンからの定住で始まった、地方での産業振興との関わりとは:新たな働き方と地域活性化の鍵を門沢氏へのインタビューから探ります。
左)門沢氏 右)DFE向井
  • 門沢 宏征(かどさわ ひろゆき)氏
    埼玉県川口市出身。大学卒業後、大手出版社、外資系太陽光パネルメーカーを経て、山形県のバイオベンチャーへIターン転職。約10年間、管理部門全般から事業開発まで幅広く担当。現在は地元方の老舗企業でCOOとして働く中、パラレルキャリアとして山形県酒田市の取り組み「サンロクIT女子」のプロジェクトマネジメント、徳島県海陽町の採用アドバイザーなど、複業で多岐にわたる活動を展開している。
  • 向井 隆昭(むかい たかあき)
    株式会社データ・ファー・イースト社 代表取締役。経理BPO事業を主軸に、企業のバックオフィスDX、AI導入、事業承継を推進。地方創生にも強い関心を持つ。

始まりは一つの決断から。「思い立ってIターン」で山形へ

向井: それでは、早速なんですが自己紹介をお願いします。

門沢: はい、お願いします。生まれと育ちは埼玉県の川口市っていうところですね。向井さんは川口市って聞いたことありますか?

向井: もちろんです。最近はクルド人の移住拠点でネットでも話題ですよね。

門沢: あ、そうそうそうそう。え、向井さんはずっと関西の方?

向井: 関西ですね。生まれは京都、育ちは大阪。で、横浜にいて、また大阪。

門沢: なるほど。川口市って多分そういうイメージだと思うんですよ。神奈川の川崎市と一緒で、東京に面している街は、多分に漏れずいろんな人が住むので、文化的な交錯もあったりして治安的な課題も出てきやすいんですよね(笑)。

向井: うんうん。

門沢: 子供の頃にショッキングな事件があって、飛び降りしちゃう中学生がいてメディアも取り上げるほどの大きな社会問題になったとか、外国人とかだけじゃなくて、結構簡単に言うと「荒れている」そういうとこだったんですけど。でも気づいたら人口の8%が今、外国籍になってるらしいです、川口市は。

向井: へぇー!人口の比率における8%って結構な割合ですよね。受け入れが広がってるんだな。

門沢: まあ、生まれ育ちは、そういうところで、大学とか社会人の頃はずっと東京にいて。で、すごいざっくりなんですけど、東京にいた時の会社が、ちょっと潰れかけたというか、親会社が中国にあってニューヨークに上場してるっていう、一応外資系だったんですけど、ある日デフォルト起こして急に上場廃止になるっていうイベントがあって。

向井: デフォルト!いきなり?日本法人は何も知らされていなかった?

門沢: そうなんですよ。日本法人として何も知らされていないんで、みんな「えぇ!?」みたいな感じになって。で、とりあえず転職エージェントに登録だけしとこうと思って登録したところに紹介されたのが前職の会社で。「山形に面白い会社あるから、交通費でるから受けてみない?」って言われたんですよ。

向井: おおー!

門沢: って言われたら、山形にいけると思って受けちゃうじゃないですか。

向井: 受けちゃいますね。

門沢: なんで、ダメ元で受けようってなりまして。

向井: (笑)。

門沢: って、感じで受けたら、受かったんで「まあ、行くか」みたいな感じで来てみたら、そろそろ10年山形にいるっていう感じです。

向井: 素晴らしい。

門沢: で、前職は3月で辞めて。で、今はまた山形の地元の会社で働いたりとか。

向井: 面白いキャリアですね。流れに委ねるというか。今もそのまま住み続けているっていうのも簡単な響きだけど、門沢さんの山形に対する何か愛情みたいなのを感じますね。

地方を元気にする「新たな働き方」との出会い

酒田市産業振興まちづくりセンター サンロク のホームページ

向井: 門沢さんのバックボーン的なのはもっともっと掘り下げたいところではあるんですけど、「有限会社とがしスポーツ」さんは今でも経営に携わっておられるんですよね?

門沢: はい、やってますよ。

とがしスポーツのホームページ

向井: とがしスポーツと「サンロクIT女子」のプロジェクトマネジメントの2つの顔を持つと。

門沢: そうそうそう。そこの話を簡単にします。とがしスポーツっていうのは、いわゆる地元のスポーツとかアウトドア商品の小売りをやってる会社なんです。で、今の代表のお父さんが始められたんで、娘さんが継いで2代目です。

で、その代表の佐藤 香奈子さんが酒田市の産業振興政策参与とかもされている中で、酒田市産業振興まちづくりセンター「サンロク」にも関わっておられるんですね。

酒田市産業振興まちづくりセンター サンロクは、「人と人、企業と企業、人と企業を
つなぐ」をコンセプトに2018年4月に設立されました。
市内の事業者様、企業様等の事業拡大や課題解決に向け、最適な取組先とおつなぎするほか、各種補助金でのサポートを行っています。また、セミナー開催などによる事業に役立つ情報提供、起業相談、女性の所得向上などを目指したIT講座、高校生等へのアントレプレナーシップ講座など、地域の産業振興にかかる幅広い取り組みを行っています。

ーサンロクとは https://sanroku.jp/what-is-sunroku/ 

向井: 本当にすごい方ですね。

門沢:  なんで、「サンロクIT女子」の方は業務委託でプロマネ的な仕事をご一緒にしてて。なんか常に香奈子さんのブレインみたいな、自分で言うのもアレなんですけど、そんなことをやってるっていう感じですね。

向井: すごいブレインっていうポジションが門沢さんに似合いますね。佐藤さんがとってもうらやましいな。

門沢: 「サンロク」が何やってるかっていうと、いわゆる産業振興で、銀行でいうビジネスマッチングみたいなこととか、助成金のご案内みたいなことをやってるんです。役所としても。で、そういういくつかの柱の中の1つとして「サンロクIT女子」っていうプロジェクトがあって。このプロジェクトが何やってるかっていうと、市民のリスキリング支援みたいなことをやってるんです。

向井: リスキリング支援なんだ。面白いなぁ。

門沢: で、ただ「学ぼうぜ」っていうよりかは、プロジェクトで受注してきた仕事をIT女子が受託して、仕事をしながらお金を稼ぎつつスキルアップしようというプログラムなんです。

向井: 仕事をちゃんととってきてくれるんですね酒田市が。リスキリングしたことを活かせる環境まで用意してもらえるって言うのはありがたいことですね。酒田市の市民貢献がすごいなぁ。かっこいい。

見えてきた課題と、地方創生の次なる一手

門沢: で、実際にその「サンロク IT女子」ていうのは皆さん酒田市の女性なんですけど、やってるのは、地元の企業のインスタ運用代行とか。あとはめっちゃマニアックなとこで言うと、これは県外の大きい会社の工場からいただいてるお仕事なんですけど、携帯電話のピッキング作業っていうのがあって。工場なんで人が入ったり辞めたりがすんごい頻繁で。

向井: はいはいはい。そうですよね。

門沢: なので、元々業務で使ってたスマホを一旦リセットして、必要なアプリを入れ直すっていう作業が結構発生するんで、スマホを一旦送っていただいて、この酒田に。で、指定された手順に沿って携帯のセットアップしてまた送りかえす、みたいなことをやったりとか。

向井: そんな仕事もあるんですね。面白いな。弊社でもやりたいぐらい。

門沢: 本当にBPO、なんでもやってるみたいな感じなんですけど。プロジェクトが提供する研修などで学んだスキルを、次は提供された仕事の方にも同時に活かしていけるんですよ。

向井: なるほど。面白いな。なんか、うちの会社(データ・ファー・イースト社)がやっているBPOやBPaaSっていうことと近いというか。

門沢: そうですね。いわゆる経理だったら広く、それこそ月次決算に向けた日々の仕訳の入力とか、決算業務とかをBPO的に受託されてると思うんですけど、そういう仕事を代行しているのと同じで、いろんなカテゴリーの業務があるんですけどね。

向井: 酒田市のフットワークの軽さもいいなぁ。リスキリングすることの必要性よりも、それで仕事ができるようになるっていう具体的な未来を提示しているのが酒田市の凄さですよね。学ぶことの意義とか意味みたいなものって学びだしよりも学んでいる最中がとても迷いに繋がる。でも学びを活かした仕事をしながらだと実践的で、進んでいるっていう実感もある。

門沢: そうなんです。地方に暮らす、地方で働くことの新しい形でもある地方にとってのBPOの意義とか未来がサンロクIT女子には詰まってますね。

向井: 僕らは、業務委託なんだけど、毎月ミーティングもあるし、なんかフラっと営業やカスタマーサクセスが『どうですか最近、うちのメンバー』みたいなこと聞きに来たりとか、『助成金こんなのありますけど計画立てません?』みたいな提案してきたりとかするっていう。お客様同士のシナジーも意識してて、ここのお客様とここのお客様つなぐことができるよなぁとか、そこから取引が生まれたらめちゃくちゃうれしいんですよね。「役に立てたぞ!」っていう契約業務以外のところで何ができるか最近とても考えているんですけど。僕たちは業務委託なんだけど、DFEっていうでっかい図体の経理さんを雇った、みたいなイメージでいてもらって、すぐそばにいるよ、っていう距離感でお客様のそばにいたいな。

門沢: なんか、そういうお客様との関係ってDFEを介する「コミュニティ」ですよね。コミュニティって本来自然発生的なものだし、多分日本全国どこでも似たようなコミュニティとかグループはあると思うんですよ。ある意味、商工会議所とかってそんな感じじゃないですか。

向井: うん、うん、うん。

門沢: 良い意味でも悪い意味でも「自然発生」って言ったのがポイントで、だからこそもうちょっと意図的に交流だとか繋がりみたいなものを作っていかないと、いけないのかなっていう仮説が僕の中であって。で、意図的に作るってなると、ただ「じゃあSlackでグループ作りました」とか「月1回集まります」だと、全然コミュニティ感の温度感とかムーブメントが高まらない。

向井: そうですね。

門沢: で、僕の知人は「コミュニティマネージャー」って仕事をしてる知人がいるんですけど、まさにそういう、いい意味で人と人とを繋いだりかき乱す人がいると、さっきの自然発生から意図的なところに人の繋がりが変わっていくんじゃないかなと思ってて。

向井:それは貴重な提言ですね。たしかにコミュニティは形成されやすいけど、それを活性化するのはコミュニティスタッフの役割を持った人がいないと始まらないという。弊社が入っているweworkでもコミュニティスタッフが居てくれてまして、入居者同士をつないだりとか、ビジネスを発信してくれたり、イベントを開催してくれたりと。物理的にな交流をどんどん生み出してくれるんですよね。

門沢:そういうポジションの人って重要なんですよ。そういうコミュニティの活性が生まれると、そのコミュニティに価値が生まれるし。

向井:地方創生の大きなヒントになりそうですよね。地方の街全体をコミュニティに捉えるような。

門沢:そうそう。そういうことなんですよね。そこから始まるというか、地方にこそそういう機能が必要なんですよね。IT女子のプロジェクトでも、この自然発生ではなく、意図的なコミュニティづくりが出来たらなって構想中なんです。いまは、WEB制作からインスタ運用、プログラミングまで学んでもらってます。でも僕が意識してるのは、単にスキルを学ぶ場ではなく、参加者一人ひとりの得意分野や興味を可視化して、「この人とこの人を繋げたら面白いことが起きそう」っていうのを運営側で意図的に仕掛けたい。

向井:まさにコミュニティマネージャーの役割ですね。

門沢:そうなんです。自然発生を待ってたら起きなかったようなコラボレーションが生まれて、実際に地元企業のインスタ運用を代行して集客につながったり、自主的な勉強会が開催されるようになったり。「ITスキルで稼げるようになりたい」って当事者意識を持つ人がどんどん増やしたいと考えてます。

向井:それってまさに地方創生の理想形じゃないですか。人と人が繋がって、新しい価値が生まれて。その渦を作るってのは本当にやりがいがありそうですね。

大阪でのコラボレーションも?

向井: 門沢さんのキャリアや今のポジションをもっとたくさんの方に発信したいので、WeWorkでイベントしてくださいよ、ぜひ。

門沢: ちなみにどちらのWeWorkに?

向井: 御堂筋フロンティアっていうところで、大阪駅が一番近いです。

門沢: めちゃくちゃ大阪だ。はい。

向井: 平日のイベントならDFEの主催としてさせていだければ会場を借りることが可能なんですよ。

門沢: ええー!すごいジャストアイデアなんですけど、9月の夜って空いてますか?

向井: WeWork側が空いてるかチェックしないとですけど、問題なければ。

門沢: 多分、そっち行けるんですよ、大阪に。

向井: あ、ぜひぜひ!

門沢: 徳島に行くんですけど、徳島県の海陽町っていう町役場の採用アドバイザーやらせてもらってて。

向井: うん、うん、うん。

門沢: 帰り道に寄れるかな、多分。

向井: じゃあ、もしスペースが使えるってわかったら、Peatix作ります。

門沢: はい、ありがとうございます!

向井:こちらこそ、ありがとうございます。そして今日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。


【編集後記】
門沢氏の「なぜ山形へ?」という問いの答えは、偶然の出会いから始まった、地方の可能性を掘り起こす壮大な挑戦への序章だった。彼が見つけた「地方を元気にする新たな働き方」は、一人のキャリアを変え、企業を動かし、そして地域全体の未来を明るく照らし始めている。

門沢氏の挑戦は、これからも多くの人々を巻き込みながら、続いていくと思われます。そのダイナミックなキャリアと、地域に根差した地に足のついた活動のコントラストが非常に印象的な対談でした。「稼ぎながら学べる」というリスキリングの新しい形は、人材不足に悩む地方企業だけでなく、都市部の企業にとっても大きなヒントになるのではないでしょうか。

「自然発生的な繋がり」を「意図的に創り出す」コミュニティマネージャーという役割の重要性も、組織の活性化を考える上で非常に示唆に富んでいます。

今回の対談をきっかけに、大阪でのイベント開催も現実味を帯びてきました。今後の展開にも、ぜひご注目ください。

対談のポイントをQ&Aで振り返る

今回の向井隆昭と門沢宏征氏の対談は、地方創生や新しい働き方のヒントに満ちていました。最後に、記事の要点をQ&A形式で簡潔にまとめます。

Q1. 門沢さんはどのようなキャリアを歩んでこられたのですか?

A1. 大手出版社、外資系企業での勤務を経て、「山形に次のユーグレナがある」という言葉に惹かれ、地方のバイオベンチャーへIターン転職されました。現在は独立し、山形県酒田市の地域活性化プロジェクトのマネジメントや、徳島県海陽町の採用アドバイザーなど、地域に根差した多様な活動を複業として展開されています。


Q2. 話題の中心となった「サンロク IT女子」とは、どのようなプロジェクトですか?

A2. 山形県酒田市が手がける、女性向けのリスキリング支援事業です。最大の特徴は、単にスキルを教えるだけでなく、プロジェクトで受注した実際の業務(Instagram運用代行やスマートフォンのセットアップなど)をこなし、報酬を得ながら実践的に学べる点にあります。これにより、参加者のスキルアップと地域企業の人材不足解消を同時に実現しています。


Q3. 地方企業が抱えるDXや人材に関する課題とは何でしょうか?

A3. 対談では、地方には依然としてFAXやExcel中心のアナログな業務プロセスが根強く残っていることが指摘されました。変化への抵抗感や、リソース不足からDXの第一歩を踏み出せない企業が多いのが現状です。門沢氏は、こうした企業に対し、まずは業務委託という形で外部の専門家の力を借り、小さな成功体験を積み重ねていくことの重要性を語っています。


Q4. 地方創生や組織活性化において、今後重要になる視点は何ですか?

A4. 「コミュニティマネージャー」の存在が鍵になると門沢氏は指摘します。商工会議所のような既存の繋がりだけでなく、人と人、企業と企業を意図的に繋ぎ、化学反応を促す「かき乱す」役割が重要になります。このようなハブとなる存在がいることで、新たなビジネスチャンスが生まれ、地域全体が活性化していくという考え方です。


Q5. この対談から、経営者は何を学ぶべきでしょうか?

A5. 地方には、都市部とは異なる独自の課題と、それを解決する大きなビジネスチャンスが眠っています。リモートワークが普及した今、地方の人材を活用した新しいBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の形は、コスト削減だけでなく、企業の社会貢献や新たな価値創造にも繋がります。自社の業務プロセスを見直し、外部の力、特に意欲ある地方の人材と連携する可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

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