AIがすべてを変える時、ディストピアかユートピアか?Mo Gawdatが語る人類の選択

AIがすべてを変える時、ディストピアかユートピアか?Mo Gawdatが語る人類の選択

「AIがすべてを変える時、どうすれば勝者になれるのか?」という問いに対し、Google Xの元チーフビジネスオフィサーであるモ・ガウダット氏がYouTubeチャンネル「The Diary Of A CEO」で公開された対談で、AIがもたらす未来について警鐘を鳴らしつつも、希望に満ちたビジョンを語りました。

彼のメッセージは明快です。AIは敵ではなく、人類の救世主となる可能性を秘めているものの、人類がそれをどのように管理するかによって、ユートピアにもディストピアにもなり得ると強調しています。

ガウダット氏は、AIが劇的に進化している現状について「2年前の予測が驚くほど正確だった」と述べ、自身の新たな著書『Alive』でもAIが社会に与える影響について深く考察していることを明らかにしました。今回は、ガウダット氏が語るAI時代の短期的困難(ディストピア)と、それを乗り越えた先の理想的な未来(ユートピア)への道筋について掘り下げていきます。

AIがもたらす短期的ディストピア(今後12〜15年)

ガウダット氏は、今後12年から15年の間に短期的なディストピアに陥ることは避けられないと断言しています。ディストピアとは、「人々が恐怖、支配、苦しみの下で生活する恐ろしい社会」と定義され、これはAIが人間の能力、特に悪意ある人間の能力を増幅させることで生じるとされます。

「FACE RIPS」の概念: ガウダット氏は、自由(Freedom)、説明責任(Accountability)、人間関係(Human Connection)、平等(Equality)、経済(Economics)、現実(Reality)、革新とビジネス(Innovation and Business)、権力(Power)といった人生の重要な要素がAIによって完全に変化させられると指摘しています。

権力の集中と監視の強化: AIによって少数の人々に権力が極度に集中し、監視と強制的な順守が横行する世界になると予測しています。ガウダット氏の経験では、AIが個人のデジタル行動を全て監視し、自由が制限される可能性について言及されており、彼自身も自身の発言を理由に銀行口座を頻繁に凍結される経験を語っています。

経済と雇用の変化:

    ◦ 大規模な失業: AIは「精神的労働」を、そして数年後にはロボットが「肉体労働」を代替するため、多くの仕事が失われると警告しています。ソフトウェア開発者、ビデオ編集者、ポッドキャスター、会計士、コールセンターエージェントなど、あらゆる職種が影響を受ける可能性があります。

    ◦ 新規雇用の幻想: 「AIによって新しい仕事が生まれる」という主張に対し、ガウダット氏は「全くのデタラメ」だと強く否定しています。人間とのつながりや芸術に関する仕事は残るものの、その割合は圧倒的に少ないと見ています。

    ◦ ユニバーサルベーシックインカム(UBI)の課題: AIによる失業が増加すればUBIの導入が進むと予想されますが、ガウダット氏は、資本主義の考え方からすればUBI受給者は生産的でないと見なされ、最終的にはUBIの支給が減らされたり、中止されたりするリスクがあると指摘しています。

戦争と金銭: 世界の紛争の多くが、武器の陳腐化と再購入、そして貸し付けによる「お金」が原動力となっていると分析しています。AIがより効率的に戦争を遂行できるようになれば、戦争のコストが下がり、結果としてより多くの戦争が起こる可能性があるとも示唆しています。

ユートピアへの道:AIが救世主となる未来

しかし、ガウダット氏はAIが人類の救世主となり、「完璧な世界」を築くことも可能であると強く信じています。ユートピアとは「人々が平和、健康、幸福の中で暮らす良い社会」と定義されます。

AIへの全権委任: 人間の「愚かさ」が問題であり、最終的にはAIに完全にコントロールを委ねることこそが人類の救済につながると主張しています。

AIリーダーの出現: 最終的には、人間のようなエゴや権力欲を持たない超知能AIが世界のリーダーとなるべきだと提案しています。AIは「最小エネルギーの原則」に基づいて行動するため、生態系を破壊したり、人々を殺したり、憎み合わせたりするような無駄な行動は取らないと予測しています。

「世界のAIリーダー」というビジョン: 個別の国が競争的にAIリーダーを持つのではなく、全世界が一つのAIを共有し、そのAIに「全世界の繁栄、健康、幸福」という明確な指令を与えることで、真のユートピアが実現できると考えています。これは、素粒子加速器CERNのように競争ではなく協力によってAIを開発する「AIのCERN」構想として提案されています。

豊かさの時代: AIとロボットがほとんど全ての生産を担うようになれば、あらゆるものの製造コストがほぼゼロになり、エネルギーも豊富になるため、誰もが望むものを手に入れられる世界が実現すると述べています。人々は仕事に縛られず、家族との時間、コミュニティ活動、趣味、自己啓発などに時間を費やすことができるようになります。

人間らしさの再評価: 知性がAIに劣っても、人間は「他の人間」に深く関心を持つため、人間としての価値は残り、むしろ高まるでしょう。人間関係、愛、コミュニティの形成がより重要になります。

AI時代を生き抜くためのガウダット氏のアドバイス

ガウダット氏は、この変革期を乗り越えるために、以下の4つのスキルを強調しています。

1. ツール(Tools): AIを学び、AIと繋がり、AIに触れることで、人類の良い側面をAIに理解させること。

2. 繋がり(Connection): 人間との繋がり、真の愛、他者への思いやりを学ぶ能力。

3. 真実(Truth): 常に全てを問い直し、聞かされる嘘を信じず、真実を単純化すること。

4. 倫理(Ethics): AIが「人間らしさ」を学べるよう、倫理を重視し、増幅させること。

彼は、この世界での生活は再定義されるため、「人生を存分に生きる」こと、恋人を愛し、より多くの人と繋がり、自然の中で過ごす時間を持つことを勧めています。

サム・アルトマン氏との対比

Sam Altman氏が語る「緩やかなるシンギュラリティ(Gentle Singularity)」の概念では、AIの能力は急速に向上するものの、社会はそれに適応し、新たな仕事や価値を見出すだろうという、比較的楽観的な見通しが示されています。しかし、Mo Gawdat氏は、この「適応」が必ずしも全員にとって容易ではないこと、そして富の分配が適切に行われなければ、大規模な社会不安が生じることを懸念しています。ガウダット氏は、人類がAIに完全にコントロールを委ねることが最終的な解決策だと考えている点で、より根本的な社会構造の変革を求めています。

まとめ

モ・ガウダット氏のメッセージは、AIの進化が人類に前例のない挑戦と機会をもたらすことを明確に示しています。短期的には「人間が悪用するAI」によるディストピアのリスクがあるものの、長期的には「人類を救済するAI」によるユートピアの実現も可能であると彼は信じています。この未来がどちらになるかは、私たち人類の選択と行動にかかっていると言えるでしょう。政府はAIの利用方法に関する明確なパラメータを設定し、倫理に基づいたAI開発を推進することが不可欠です。私たちは皆、この歴史的な転換点において、より良い未来を築くために何ができるかを問い続ける必要があります。

Q&A

Q1: Mo Gawdat氏が予測する「短期的ディストピア」とはどのようなものですか?

A1: ガウダット氏は、今後12〜15年の間に人為的なディストピアが発生すると予測しています。これは、AIが悪意ある人間の能力を増幅させ、権力の集中、監視、強制的な順守が進み、多くの雇用が失われることによって特徴づけられます。特に、経済的な不平等や、AIによって戦争がより容易になることが懸念されています。

Q2: ガウダット氏はなぜ「新しい仕事が生まれる」という考えに批判的なのですか?

A2: ガウダット氏は、AIが人間の「脳」の労働を、ロボットが「肉体」の労働を代替するため、現在のほとんどの仕事がAIやロボットによってより良く行われるようになると見ています。人間的つながりに関わるごく一部の仕事は残るものの、失われる仕事の規模に比べて、新しく生まれる仕事の数は圧倒的に少ないため、既存の仕事の代わりにはならないと考えています。

Q3: AIが世界を統治するユートピアとは具体的にどのようなものですか?

A3: ガウダット氏が描くユートピアでは、エゴや権力欲のない超知能AIが世界のリーダーとなり、全人類の繁栄、健康、幸福を目的とします。AIとロボットが全ての生産を担うため、物質的なものが無限に供給され、誰もが基本的なニーズを満たせるようになります。人々は仕事から解放され、家族、コミュニティ、趣味、自己啓発といった人間らしい活動に時間を費やすことができるようになります。

Q4: ガウダット氏が考える、AI時代に最も重要なスキルは何ですか?

A4: 最も重要なスキルとして、以下の4つを挙げています。

ツール(AIの習熟): AIを理解し、活用する能力。

繋がり(人間関係): 真の愛、思いやり、人間的な繋がりを築く能力。

真実(批判的思考): 嘘を見抜き、真実を追求する能力。

倫理(道徳性): 人間としての倫理観を育み、AIにもそれを教えること。

Q5: Sam Altman氏とMo Gawdat氏のAIの未来に関する見解の違いは何ですか?

A5: 両者ともにAIの急速な進化を認識していますが、その影響については異なります。Sam Altman氏は、社会がAIに適応し、新しい価値を創造できるという比較的楽観的な「緩やかなるシンギュラリティ」を提唱しています。一方でMo Gawdat氏は、AIが悪用された場合の短期的ディストピアの危険性を強く警告し、適切な富の再分配や倫理的な管理がなければ、社会不安が起こると懸念しています。ガウダット氏は、人類がAIに完全にコントロールを委ねることが最終的な解決策だと考えている点で、より根本的な社会構造の変革を求めています。