働き方が多様化する中、複数の会社で雇用されるケースが増えています。副業OKの企業も増えてきました。
複数の会社で正社員として働くことは、法律上禁止されていません。
しかしその場合、「社会保険はどうすればいいの?」と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
今回は、Wワークで雇用される場合の社会保険の取り扱いについて解説します。
当記事では、便宜上、2社で働いている場合を例に解説します
社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は、加入条件を満たすかどうかによって決まります。原則として以下の条件を満たす場合は、加入対象です。
- 1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上
- 1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上
上記の要件を満たさないパート・アルバイトの場合でも、以下の条件をすべて満たせば、社会保険の加入対象です。
- 1週間の労働時間が20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上(残業代・賞与等は含まない)
- 2カ月を超える雇用契約がある
- 学生ではない
- 勤務先の従業員が51人以上

Wワークの社会保険は、加入要件を満たしていれば複数の会社で加入できます。主に3つのケースに分けられるでしょう。
- 両方の会社で要件を満たしている→両方の会社で社会保険に加入
- どちらか一方の会社だけ要件を満たしている→要件を満たしている会社のみ社会保険に加入
- どちらの会社も要件を満たしていない→どちらの会社でも社会保険に加入しない
所属している2社で社会保険の加入要件を満たす場合、A社・B社の両方で社会保険に加入する必要があります。
なお複数の会社で社会保険に加入した場合でも、所持できる健康保険証は1つです。どちらの会社の健康保険証を所持するかは自分で選び手続きを行う必要があります。
被保険者(本人)は、事実発生から10日以内に手続きを行いましょう。
A社・B社どちらかの事業所を主たる事業所として選択し、その選択した事業所を管轄する年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。
A社・B社それぞれの給料を合算し、その額に応じて社会保険料が決定されます。
A社20万円、B社10万円→標準報酬月額30万円
標準報酬月額30万円×厚生年金保険料率18.3%=厚生年金保険料54,900円
厚生年金保険料54,900円は、事業主と被保険者で折半するので、事業主負担分:27,450円 被保険者負担分:27,450円
厚生年金保険料は賃金の比率で按分されます。A社とB社の賃金は2:1であるため
A社の被保険者負担分→18,300円、B社の被保険者負担分→9,150円
- 2社の給与を合算して標準報酬月額が決まるため、将来の厚生年金額が増える
- 健康保険の給付(傷病手当金・出産手当金など)も合算給与を基準に算定されるため手厚くなる
- 「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」の提出など、手続きが煩雑
- 各会社の給与に応じた按分で社会保険料を負担するため、給与の手取りが減る
複数の会社で働いていて、どちらか1つの会社で社会保険の加入要件を満たす場合は、その会社で社会保険に加入することになります。
つまりこの場合は、1社で働き給料をもらっている一般的な会社員と同じです。
- 1社分の給与に対する社会保険料のみ支払うため、手取りが比較的多い
- 手続きがシンプルで負担が少ない
- もう1社の給与は社会保険の対象とならず、将来の年金額が少なくなる
- 病気やケガで休業した場合、傷病手当金の基準が1社分の給与に限定される
勤め先が複数あったとしても、どの勤務先も要件を満たさない場合があります。
その場合は、従業員が個人で「国民健康保険」に加入しなければなりません。
年金は「国民年金」となり、被保険者自身が毎月月末に前月分の保険料を納付します。
国民健康保険は市区町村で手続きを行い、保険料は所得に応じて変動します。国民年金は1カ月あたり16,980円です(令和6年度)
- 社会保険料の会社負担分がないため、勤務先の影響を受けずに自身の負担額を把握しやすい
- 就業先の変更があっても手続きが比較的シンプル
- 厚生年金に比べ、将来の年金額が少なくなる
- 国民健康保険料は所得に応じて変動するため、想定より高額になることがある
複数の会社に雇用される場合、社会保険の取り扱いは加入要件を満たすかどうかで異なります。
両方の会社で要件を満たせば、両社で社会保険に加入し、健康保険証は主たる事業所を選んで発行。保険料は賃金の比率に応じて按分されます。
一方、どちらか一方のみ要件を満たす場合は、その会社でのみ加入。いずれの会社も要件を満たさなければ、国民健康保険・国民年金に加入が必要です。
適切な手続きを行い、社会保険の仕組みを正しく理解しましょう。