令和4年12月16日に、政府与党から「令和5年度(2023年度)税制改正大綱」が公表されました。
この税制改正大綱で示された方向性に基づいて、今後税制改正が行われていきます。ただし大綱のどおりに改正されるとは限りませんのでご注意ください。また記載されている内容は一部です。
この記事では、企業が知っておきたい令和5年度税制改正大綱のポイントを解説します。
成長と分配の好循環の連鎖の観点から、延長や見直しが図られています。主要なものを紹介します。
オープンイノベーション促進税制は、企業がスタートアップ企業の株式を取得した場合、最大でその取得価額の25%相当額を所得から控除できる税制として、令和2年度に新設されました。
今回の税制改正では、下記の見直しが行われました。
- スタートアップ企業から株式を直接取得していない場合であっても、議決権の過半数を取得すれば適用可能となる
- 取得株式について、対象となる取得価額の上限を100億円から50億円に引き下げる
- 既に議決権の過半数の株式を有しているスタートアップ企業に対する出資は除外する
研究開発税制は、研究開発を行う企業が法人税額から試験研究費の一定の割合を控除できる制度です。今回の改正で控除可能額が増加。
今までは控除額の上限は一律となっていたため、控除額が上限に達した企業にインセンティブが機能せず、一定規模以上の研究開発が抑制される可能性がありましたが、今回の改正で、控除率の下限が現行の2%から1%引き下がり、上限が現行の25%から20%~30%に引き上げに。
これにより、今後の研究開発の効果や質が高まることが期待されます。
DX投資促進税制は、企業のDX化を促進するために令和3年度新設された税制。
適用期限が2年延長されます。
また施行から一定の期間が経過したため、適用要件が見直されることになりました。
主要な見直し事項は次の2点です。
- 生産性の向上または新需要の開拓に関する要件を、売上高が10%以上増加する見込があることに見直す
- 取組類型に関する要件を、対象事業の海外売上高比率が一定割合以上となる見込があることに見直す
法人税の税率は、原則23.2%。
しかし中小法人の年800万円以下の所得金額に対しては19%が適用され、さらに中小企業者等に限って15%となる時限的な特例が設けられています。
この特例の適用期限が2年延長されました。
法人が期末において保有する暗号資産(いわゆる仮想通貨)の評価対象について、これまでマーケット価格による時価評価が必要となり、その評価損益は課税の対象とされていました。
今回の改正で、自己発行暗号資産等を期末時価評価の対象から除外する見直しが行われます。
いよいよ令和5年10月から、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されます。
ここからは特にインボイス制度上の改正点について一部紹介しましょう。
インボイス制度の導入を機に課税事業者となった免税事業者は、2026年9月30日までの日の属する各課税期間における消費税の納付税額を、売上にかかる消費税額の2割とすることができる特例(いわゆる「2割特例」)が導入されます。この期間に属する課税期間においては、実質的に消費税負担が2割ですむことに。
なお適用を受けるためには確定申告書にその旨を付記する必要がありますので注意してください。
基準期間における課税売上高が1億円以下である事業者、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者に限って、2029年9月30日までに行う支払対価1万円未満の課税仕入れについては、帳簿記載のみで仕入税額控除が認められるという特例が導入されます。
2023年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者は、原則として2023年3月31日までに登録申請書を提出しなければなりませんでした。
これが2023年9月30日までに申請書を提出すれば、インボイス制度開始日である2023年10月1日に登録が間に合うこととなるようです。
インボイス制度の導入に伴い、取引の売手が買手に対して値引き等を行った場合は、原則として売手はその値引きについて適格返還請求書の交付をする必要があります。
しかし課税仕入れに係る支払対価の額(税込価額)が1万円未満の取引は、インボイスが無くとも、帳簿のみで仕入税額控除を可能とする事務負担軽減措置が設けられることに。この軽減措置は6年間です。
企業は令和5年度税制改正大綱において、納税環境整備が必要です。特に電子帳簿保存法に関するポイントを紹介します。
国税関係書類をスキャナで読み取って保存する際の、解像度及び階調情報・大きさ情報・入力者情報等が廃止に。また相互関連性要件を満たすべき書類が、契約書・領収書等の重要書類に限定。
この改正によって、スキャナ保存制度が使いやすくなりました。
メール等に添付された電磁的記録として保存が必要とされる請求書・領収書等について見直しが行われました。
判定期間における売上高が5,000万円以下の事業者、電磁的記録の出力書面の提示、又は提出の求めに応じる準備をしている事業は、そのデータを保存する際の検索機能等の確保が不要に。
また原則は2024年1月1日以降も、受領した電子取引にかかる電子データは紙出力による保存が認められませんが、例外として、電子保存できなかったことについて相当の理由」あり、かつ税務調査において電子データもしくは紙を提出できれば、紙保存が認められることとなりました。
無申告加算税の割合は、従来15%でした(50万円を超える部分は20%)。
しかし今回の見直しで、「納付すべき税額が300万円を超える部分は30%」というカテゴリーが新設されることになりました。
今回は、税制改正大綱に記載された改正項目の、法人業務に関連する項目の一部を解説しました。
やはり今年度の大きな動きは、インボイス制度と電子帳簿保存法。自社だけでなく取引先への影響にも留意しましょう。
また詳細が決まっていない改正事項もあります。閣議決定後の内容をしっかりと確認し、対応が遅れないよう注意してください。